第265話 よっしゃ肉
「三次元配置移動!」
そのスキルを使うと、地面が浮き上がった。
「「「…………」」」
ギフトで新しく作り出した公園。
僕たちを乗せたそれが丸ごと浮遊し、そのまま空高く上昇していく。
「「「…………」」」
十分なスペースがある施設となると、公園は最適だった。
畑だと足場があまりよくないしね。
「「「…………」」」
公園といっても遊具のないただの地面で、代わりに物見塔と診療所を設置してある。
なにせこれからこの公園を舞台に、魔境の山脈に棲息するワイバーンと戦うのだ。
「物見塔はワイバーンをいち早く発見できるように。診療所はもちろん、万一負傷者が出たときのためだね」
「「「…………」」」
「あれ? どうしたのみんな? さっきからずっと押し黙って……」
「「「いやこんなのありか~~~~い!!!!」」」
みんなが一斉に大空に向かって叫んだのでびっくりした。
「ちょっと! まさか、このまま山脈まで飛んで行くってこと!?」
「そうだよ、セレン。城壁を空に飛ばしたのと同じ要領だね」
「あれは村の中だからできた芸当じゃないの?」
「この辺りも村だよ? ほら、前に王都まで行ったでしょ?」
便宜上、荒野に築かれた城壁の内側の部分を村と呼んではいるけれど、ギフトの上では、すでに王都の大半が村の領域に入っている。
荒野から近い魔境の山脈は、当然とっくに村の一部だった。
「それにしても、さすがは村長……常に我々の想像を超えてくる……」
「ともかくこれでワイバーンだろうと狩れるはずだぜ!」
「またあの肉を食える……じゅるり」
ちなみにワイバーン狩りに参加するのは、主に狩猟隊のメンバーたち。
セレン、フィリアさん、セリウスくんに、ノエルくん、バルラットさん、ベルンさん、ランドくん、ゴアテさん、ドリアル、バザラさん、バンバさんといったお馴染みの面々である。
そこに『癒し手』のギフトを持つエルフのクリネさんも加わっていた。
普段からオークやコカトリス狩りを行っているメンバーなので、連携はばっちりだろう。
他にも腕に覚えのある冒険者や村の衛兵たちが参加を希望してきたけれど、今回は見送られてもらった。
慣れてるメンバーだけの方がやり易いだろうし。
ただ、一人だけ、どうしてもと本人の希望で参加しているのが、
「ああん、すっごく楽しみだわぁ! 楽しみ過ぎてアタシ、胸が疼いちゃう……ああっ、これはもしかして、恋っ!? なんちゃってね、うっふん♡」
『拳聖技』のギフトを持つ筋肉美容師のゴリちゃんである。
……ゴリちゃんは連携とか無視して、一人でもワイバーンと戦えそう。
そうこうしている内に、空飛ぶ公園は山脈のすぐ目の前までやってきた。
まだ低いこの辺りは木々が生い茂っている。
現在がせいぜい地上二百メートルほどの高さなので、山頂は遥か上だ。
たぶん、標高は軽く2000メートルを超えていると思う。
山頂に近づくほど段々と樹木が薄くなって山肌が露出していくとともに、ほとんど崖のようになっていた。
確かにあれを人力で登っていくのは大変だ。
ワイバーンと戦うどころじゃない。
自ら餌になりに行くようなものだろう。
「じゃあ高度を上げていくね」
そういえばあまり急激に高度を上げ過ぎると、高山病になっちゃうんだっけ?
と思ったけれど、ここに居る人たちなら大丈夫か。
回復魔法やポーションもあるね。
というわけで、気にせずぐんぐん高度を上げていく。
「あそこに何かいるぞ!」
「ワイバーンか!?」
数百メートル先の岩壁に見つけた影に、みんなが俄かに沸き立つ。
物見塔の上にいるフィリアさんが首を振った。
「いや、あれはグリフォンだ。ワイバーンではない」
「「「違ったか……」」」
「む? 待て。向こうの岩陰で何かが動いたような……」
僕はフィリアさんが目を向ける方へと公園を飛ばす。
するとついにそれらしい影を発見した。
「いたぞ! ワイバーンだ!」
「「「よっしゃ肉ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」」」
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