第264話 今夜はバーベキューだ

 慌てて旋回し、逃げようとするワイバーン。

 だけど間に合わずに迫りくる城壁に激突した。


「~~~~~~ッ!?」

「この距離なら簡単だ」


 さらにそこへすかさずフィリアさんが矢を放つ。

 硬い鱗に護られた身体にはダメージが通りにくいとの判断か、矢はワイバーンの翼に直撃し、貫いた。


「ギャアアアアアアアッ!?」


 片方の翼に大きな穴が開き、飛行のバランスを完全に崩したワイバーンは、錐もみしながら地上へと墜落していく。


「こっちに落ちてきたぞ! 確実に仕留める! いいなっ!」

「「「うおおおおおおおおっ!」」」


 その落下地点に向かって一目散に走っていくのは、セレンが鍛えた狩猟隊の面々だ。

 しかもめちゃくちゃ気合が入っている。


 それだけみんな、この村を必死に護ろうとしてくれているのだろう。

 最近は城壁内にまで魔物が侵入してくるなんてこと、滅多になかったし。


「ワイバーンの肉はめちゃくちゃ美味いらしいからな!」

「「「喰いてえええええっ!」」」

「絶対に逃がすなよっ!」


 動機そっち!?


「グルアアアアアッ!!」


 ワイバーンも必死に暴れたけれど、飛行能力を失った亜竜は、この村の最強戦力である狩猟隊の敵ではなかった。


「倒したぞおおおおおおっ!」

「「「今夜はバーベキューだああああああっ!!」」」









「「「うめえええええええええええっ!!」」」


 ワイバーン肉、物凄く美味しかった。


 獲ったばかりのワイバーンを捌いて、その夜には希望通りバーベキューを行ったのだけれど、オーク肉やミノタウロス肉で舌が肥えているはずの村人たちが、揃って大絶賛だ。


 トカゲとかワニに似ているので、食べることができそうだなとは思っていた。

 でもまさかここまで美味しいなんて。


「味としてはオーク肉とコカトリス肉の間ぐらいかな?」

「トカゲって、ちょうど豚肉と鶏肉の中間くらいの味だものね」

「……セレン、トカゲ食べたことあるの?」

「それくらいあるわよ」


 一応は伯爵令嬢のはずなのに、随分とワイルドだなぁ。


 ちなみにワイバーン肉が美味しいという噂は、知る人ぞ知るものだったらしい。


「だが実際に喰ったことがある奴には、今まで会ったことなかったな。たまにあると主張する奴もいたが、問い詰めてみたらだいたい法螺だった。滅多に討伐なんてできるような魔物じゃねぇし、当然だが」


 と、冒険者のアレクさん。

 熟練冒険者であるアレクさんでも、ワイバーンを討伐した経験はないという。


「それにしてもこのワイバーン、どこから来たんだろう?」

「魔境の森には居ないはずだ。恐らく山脈の方ではないか?」


 フィリアさんが予測を口にすると、『剛剣技』のギフトを持つドワーフの戦士バンバさんが有力な情報を教えてくれた。


「確かに山脈の上の方で、ワイバーンらしいおっきな影を何度か見たことあるなぁ」


 ドワーフたちは、かつて山脈の麓あたりで暮らしていたことがある。

 これに村人たちが目を輝かせた。


「じゃあ、魔境の山脈なら、このワイバーン肉がもっと手に入るってことか!?」

「この村の新しい名物だ!」


 だけど対照的に顔をしかめたのが狩猟隊である。


「いやいや、山脈の上はどえらい険しさで、人が登れるような場所じゃねぇべ。しかも今はまだまだ冬。雪も積もってるだ」

「ああ。コカトリスはまだ低いところに棲息してるからいいが、あの山を登っての狩りは夏になっても厳しいだろう。なにせほぼ垂直な崖だからな。剣を振ることすらできないのに、どうやってワイバーンと戦うんだって話だ」

「ワイバーン肉は魅力的だけど、さすがにリスクが高すぎるわ」


 彼らはよくコカトリス狩りに出かけているので、山脈の険しさを身をもって理解しているのだろう。

 狩猟隊のリーダーであるセレンも首を横に振っている。


 幾ら実力者ぞろいの狩猟隊でも、ロッククライミングしながら、空を飛ぶワイバーンを狩るのは不可能だ。

 でも、もしちゃんとした足場があったら?


「えーと……ワイバーン狩り、何とかいけるかも?」


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