第41話 もっと強くしてほしいっす

 大半の盗賊たちが更生され、今では村のために一生懸命働いている中、まだ牢屋から出すことができない者たちが二人いた。


 そのうちの一人は、牢屋が随分と小さく見える巨躯の持ち主。

 近づいていくと目だけがぎろりとこちらを向き、その威圧感に思わず後退りそうになってしまった。


ドリアル

 年齢:36歳

 愛村心:低

 適正職業:戦士

 ギフト:斧技


 盗賊団の親玉だった男だ。


「こいつはアタシが何をやってもこたえた様子がない。どんなに痛めつけても顔色一つ変えないなんて、大したタマさね。さすが盗賊たちの親玉張ってただけのことはあるよ」


 おばあちゃんが感心したように言う。


「危険過ぎて、ここから出すこともできないよ。いっそ処刑しちまうかね?」


 ……相変わらず物騒なことを平然と口にするおばあちゃんだ。


 一方ドリアルの方は、おばあちゃんの脅し文句にも眉一つ動かさない。

 単に身体が大きいだけじゃない。

 今までよっぽどの死線を潜り抜けてきたのか、随分と肝が据わっている。


 と、それまでずっと無言だったドリアルが、不意に口を開いた。


「……あの青い髪の娘はどうした?」

「え? セレンのこと?」

「セレンというのか。オレを倒したあの娘だ」


 セレンがどうしたっていうんだろう?


「オレは自分より弱い相手には従わない」

「うん?」

「だが、あの娘の言うことであれば聞く気はある」

「へ?」


 ……僕はセレンを牢屋に呼んだ。


「と、いうことらしいんだけど」

「ふうん……」


 セレンは鉄格子の向こうにいる巨漢を胡散臭そうに睨みつける。


「一体何を企んでるのよ? そう言っておけば、外に出してもらえるとでも思ってるのかしら」

「別に何も企んではいない。ただ、オレはオレを負かしたお前に、相応の敬意を払いたいというだけだ」

「……」

「無論、ここから出せと言っているわけでもない。もしオレの力が必要なときがきたら、そのときは手を貸してやろう」


 確かに戦い慣れしたこの男の力は、万一のときに頼りになりそうだけど……。


 とりあえず保留だ。

 しばらくはこのまま牢屋に入れておこう。


「もう一人はこいつだよ」

「この人って、確か最初に捕まえた盗賊だよね、おばあちゃん」


 他の囚人たちが去り、すっかり静かになった牢屋の片隅。

 そこに捕らえられていたのは、僕たちが盗賊団を村の中に誘き寄せ、罠に嵌めるために利用したあの盗賊だった。


バール

 年齢:23歳

 愛村心:低

 適正職業:下っ端

 ギフト:なし


「っ! ババア、また来てくれたっすか!」

「誰がババアだい! 殺されたいのかい!」


 おばあちゃんは怒鳴りつけるけれど、なぜかバールは嬉しそうにブルブルっと身体を震わせた。


 さらにおばあちゃんは、木で作った鞭でバールを叩き始める。

 バチンバチンと、痛々しい音が響いた。


「あひぃっ! も、もっと! もっと強くしてほしいっす!」


 なのにバールはというと、陶然としながらさらに強く叩くよう要求する。

 おばあちゃんは気味が悪いものを見るような顔で、バールの股間を踏みつけた。


「このド変態野郎が!」

「~~~~~~っ!? あ、あふっ……いひぃ……」


 い、痛い……っ!


 僕は思わず自分の大事なところを抑えてしまう。


「ひ、ひぎぃ……」


 口の端から涎を垂らし、身を捩らせるバール。

 けれど、苦悶で歪んでいるはずの顔が、どこか嬉しそうに見えた。


「い、今のは……すごく、よかったっす……うひ……うひひひ……」


 ……き、気持ち悪い。


 おばあちゃんは害虫でも見るような目でバールを見下ろしながら、溜息を吐いた。


「見ての通りで、あたしにはお手上げさ」

「何でこんなことになっちゃったの?」

「さあね。最初は痛めつけるとちゃんと痛がったし、しっかり怯えてはいたんだけれどねぇ……段々と気持ちよくなっちまったんだろうよ」


 痛めつけられて気持ちよくなるって、どういうこと……?


「こんな有様だから、残念ながらあたしのやり方じゃ更生は不可能だね」

「なに言ってんすか、ババア! もっともっと俺を痛めつけてほしいっす!」

「最近じゃ、あたしに怒られたいからって、ワザとババアなんて呼んでくるんだよ」

「そ、そうなんだ……」

「こんな変態、初めて見たよ……できればもう関わり合いたくないねぇ」


 あのおばあちゃんが逆に怯えているなんて。


「……こ、こっちも保留かな」


 愛村心は「低」だけど、外に出すには色んな意味で危険そうだし。

 先ほどのドリアルと同じく、今後の彼の扱いについてもひとまず保留とした。

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