第133話 これなら楽しく涼を取れそうね
夏が近づき、随分と暑くなってきた。
この荒野、冬は寒くて夏は暑いという、なかなか過酷な環境なのだ。
ただ、室内は涼しい。
というのも、家屋・大の室温や湿度が、常に快適な状態を保たれているからだ。
マンションも同様なので、村人たちからは「夏でもこんなに住みやすいなんて!」と驚かれている。
しかし外の暑さはどうしようもない。
とりわけ農作業など屋外での仕事をしている人たちの間では、涼をとりたいという需要が高まっていた。
「というわけで、プールを作ってみようと思うんだけど」
「プール、ですか?」
「聞いたことないわね」
キョトンとするミリアとセレンに、僕は説明する。
「泳いだり潜ったりして遊ぶための施設だよ」
「ふむ。つまり人工的な川のようなものだろうか?」
首を傾げるフィリアさん。
まぁだいたい合ってはいるけど、
「説明するよりも実物を見た方が早いと思う」
僕は村の空いたスペースへと移動する。
プールを作ると言っても、生憎と作成可能な施設のリストの中にプールはない。
なので水路を作り、それをプールとして利用するつもりだ。
〈水路:石でできた水路。自動洗浄、ゴミや汚泥の堆積防止機能付き〉
水は綺麗なはずだし、泳ぐのに問題はないだろう。
この水路を、弧を描くように伸ばしていき、最後はスタートとゴールを連結させる。
つまり大きな円形にしたわけだ。
ただし、連結した部分では、お互いを区切る壁を残したままにしておいた。
「さらにこの壁をゆっくり動かしていくと……」
壁に押されて、停止していた水が徐々に動き出す。
それが段々と川のような流れへと変わっていく。
そう、流れるプールだ。
「本当に人工の川を作ってしまうとは……」
「凄いわね。これなら楽しく涼を取れそうね」
「さすがはルーク様です」
公共プールにするつもりだけれど、まずは安全確認も兼ねて、少人数で泳いでみることにしよう。
「どこまで服を脱ぐべきかしら? 外だから公衆浴場みたいにはいかないし。……下着?」
「実はこんなものを作ってあるんだ」
僕が取り出したのは、速乾性や伸縮性に優れた特別な生地で作られた衣服だ。
「なんだか不思議な肌触りですね。それにとてもよく伸びますし」
「こんなの見たことないわ」
「服飾工房で作ってもらったんだ」
〈工房:美術や工芸、鍛冶、服飾などに使える仕事場。アイデア力、器用さアップ〉
ギフトで作ったこの工房の一つを服飾専門にしていて、最近ではそこで製作された衣服が村で販売されている。
いずれも非常に性能が良く、特に村の婦人たちを中心に大ブームになっていた。
そこにお願いして、この水泳専用の衣服――水着を作ってもらったのだ。
少なくとも海のないアルベイル領に、水着なんてものはまだないはず。
「もしかしてルーク様の発案ですか? さすがです。いつも我々には思い至らないようなアイデアを思いつかれますね」
……前世の知識を流用しただけなんだけどね。
「色んな種類があるのね。それに可愛いデザインのものが沢山あって悩むわ」
「(随分と露出度が高いものもありますね……。まさか、ルーク様がわたくしに着せるために……? ふふふ、ならばこれでルーク様を悩殺して差し上げましょう……っ!)」
着替え用に作った小屋へとミリアたちが入っていく。
ちなみにタイプやデザインなどはすべて工房の職人たちに任せた。
やけに布面積が少ない水着があるけど、決して僕が指示して作ってもらったわけじゃない。
「セリウス君もどう? 男性用の水着も作ってあるからさ」
「ぼ、ぼくは別に……」
「遠慮しないでよ。ほら、フィリアさんも泳ぐみたいだしさ」
「ななな、なぜそこで彼女の名が出てくるっ!?」
そんなに一瞬で顔を真っ赤にしてたら、誰だって分かっちゃうってば。
「って、フィリアさん!? 何やってるんですか!?」
「む? 何って、川で泳ぐのだろう?」
プールサイドに立ち、不思議そうに首を傾げるそのエルフは。
――一糸纏わぬ全裸だった。
「これが我らの水泳スタイルだが?」
ブシュウウウウウウウウウウウウウウウッ!!
セリウス君が鼻血を噴き出して倒れたああああああっ!
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