第134話 お花畑が見える
「ああ、お花畑が見える……ああそうか……ぼくは今、天国に……ははは……」
「セリウス君!? 大丈夫!? まだ天国じゃないよ! 死なないで!」
全裸のフィリアさんを見て、セリウス君が鼻血を噴き出して倒れてしまった。
彼には刺激が強すぎたみたいだ。
「そ、村長……? ぼくは一体……?」
「よかった。戻ってきた……」
僕の必死の呼びかけが功を奏したのか、セリウス君の目の焦点が合う。
でもかなり血を失ったようで、顔色は真っ青だ。
「セリウス殿、大丈夫か?」
そのときこの状況を引き起こした張本人が、事もあろうか、地面に倒れたセリウス君に近づいてしまった。
もちろんまだ裸のままだ。
ブシュウウウウウウウウウウウウッ!!
「うわぁっ、また鼻血がぁぁぁっ! ちょっと、フィリアさんは離れてて! あと、服を着てよ!」
「む?」
「いいから裸を隠して! セリウス君が死んじゃう!」
理解ができない、といった顔で首を傾げるフィリアさんを強引に下がらせ、口にポーションを突っ込んで無理やり飲ませる。
「……ああ、川が見えてきた……渡ればいいのかな……あはは……」
「渡っちゃダメだからねぇぇぇっ!」
「はっ? 村長……? ぼくは一体、何を……」
どうにか一命を取り留めたセリウス君。
軽い記憶障害を起こしてはいるみたいだけど……。
こんなことで死んだとあっては、バズラータ伯爵になんて言えばいいのか分からない。
「ルーク殿、服を着たが……」
僕に怒られたせいか、心なしかしょんぼりしながらフィリアさんがおずおずと言う。
「ぼ、ぼくはさっき、何かとんでもないものを見たような……」
「大丈夫! 何も見てないから!」
そんなふうにドタバタしていると、着替え終わったセレンたちが小屋から出てきた。
「な、なんだか少し恥ずかしいわね……」
「ぴっちりしていて胸の貧相さが目立ちますから」
「胸の話はしてないわよ!」
セレンは上下が一体になった、ワンピース型のシンプルな水着だ。
彼女の髪色と同じ鮮やかな青。
一方のミリアはビキニタイプの水着で、色はこちらも彼女の髪と同じ黒。
かなり布面積が少なく、彼女の豊かな双丘が零れ落ちそうなほど。
「(いきなりだったらドキッとさせられただろうけど……さっき裸を見せられたばかりだからね……)」
「(ふふふ、ルーク様がわたくしを見ておられる……きっと興奮されているに違いありません……っ!)」
さて、僕も着替えようかな。
「あ、フィリアさんはセレンと同じタイプの水着にしてね?」
「むう、これでは泳ぎにくそうだが……せめてミリア殿の水着が……」
「セレンと同じタイプに、し・て・ね?」
「わ、分かった! 分かったから! ルーク殿が怖い!」
人命がかかっているので僕も鬼にならざるを得ない。
「ルーク様、ぜひこちらの水着をハァハァ」
「却下」
ミリアが差し出してきたブーメランパンツを拒否して、僕はハーフパンツ型の水着に着替えた。
セリウス君も同じタイプの水着だ。
「うーん……本当に何を見たのか……まったく思い出せない……」
「だから何も見てないってば! ほら、泳いで遊んで忘れちゃおうよ!」
身体は心配だけど、余計なことを思い出さないためには動いた方がいいと思う。
僕は率先して水の中へと飛び込んだ。
ざぶん!
「ちょっと冷たいけど気持ちいいよ!」
ちなみに深さは施設カスタマイズを使い、円の外側が一メートル、内側が一・二メートルになるよう調節してある。
僕の身長だと、深いところはギリギリ顔が出る程度だ。
最低でも僕くらいの背の高さがないと利用できないようにしておこう。
「浮き輪とか作れないかな? もしくはビート版とか。あと、ウォータースライダーを作れたら楽しそう」
クロールで泳ぎながらそんなことを考える。
「何その泳ぎ方? 初めて見たんだけど」
「え? クロール知らないの?」
「知らないわよ」
「ぼくも知らない。軍の水練でも習わなかったし……」
どうやらこの世界でクロールは一般的な泳ぎ方ではないらしい。
セレンもセリウス君も平泳ぎだし、ミリアに至っては泳げないという。
「この方が速く泳げるんだよ。よかったら教えてあげるけど」
別に速く泳ぐ必要もないんだけどね。
流れるプールだし。
「ふむ、我々エルフに伝わる泳法に少し似ているかもしれないな。だがそのように足をバタつかせるやり方は初めて見た」
ちゃんと水着を着たフィリアさんがプールサイドに現れる。
……ちょっとハイレグ気味の際どい水着なのが気になるけど、裸に比べたら遥かにマシだ。
これならセリウス君も――
ブシュウウウウウウウウウウウウッ!!
「やっぱりダメだったああああああああっ!?」
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書籍化のための改稿に伴いまして、三章から設定等が変わっている部分があります。詳しくは二章ラストの「修正点まとめ」でご確認ください。
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