第135話 スイカの気配を感知すれば
プールの水が真っ赤に染まるという惨劇もあったけれど、無事に新たな娯楽施設が誕生した。
夏の暑さも相まって、村人たちの間でプールブームが巻き起こった。
子供でも泳げるプールもほしいという要望があったので、浅い子供用プールも作ってみた。
冬になったら温水プールにするのもいいかもしれないね。
夏らしい食べ物もブームになった。
例えばスイカだ。
果樹園で収穫した大ぶりのスイカ。
しかも冷蔵庫に保管しておいたので、しっかりと冷えている。
〈冷蔵庫:食糧などを低温で保存するための施設。温度調整可能〉
この冷蔵庫、レベル9になって新たに作成できるようになった施設なのだけれど、土蔵並みの大きさがある。
場所によって温度を変えることができるため、冷凍庫として使うこともできた。
「ん~、このスイカ、甘くて瑞々しくて美味しいわね!」
セレンが口の周りを赤く濡らしながら言う。
「(ルーク様が吐き出したスイカの種……一粒……一粒だけでいいから……ハァハァ……)」
なぜかミリアは手にしたスイカをさっきから全然食べていない。
スイカがあまり好きじゃないのかな?
そこでふと僕は、とある遊びを思い出した。
「スイカ割りって知ってる?」
「スイカ割り? 聞いたことないわね」
キョトンとするセレンに僕は説明する。
「目隠しをして、どこにあるか分からないスイカを、周りの声を頼りに棒とかで割る遊びだよ」
「へえ。なんかちょっと面白そうね」
セレンは興味を持ったらしい。
「やってみていいかしら!」
布で目を隠すセレン。
僕はスイカを二十メートルくらい離れた場所に置くと、声で位置が分かってしまわないよう、少し離れてから合図を出す。
「スイカ置いたよー」
セレンが腰に差していた二本の剣を抜いた。
「いやいや、それ本物の剣じゃん! 危ないよ!」
「大丈夫よ。これの方が慣れてるもの」
いくら慣れてるからって、目隠しをした状態で真剣を振り回されたら危険極まりない。
と思いきや、セレンはまるで目が見えているかのような迷いのない足取りで、真っ直ぐスイカに向かって歩いていくと、
スパスパスパンッ!
「……綺麗にスイカが割れた。というか、斬った」
「楽勝ね」
見えてないはずなのに……。
「そもそもどうやってスイカの位置が分かったの?」
「気配ね」
「スイカに気配とかある!?」
目隠しをしたふりをしてただけで、実は見えていたんじゃないの……?
「ふむ、なかなか面白そうなことをしているな」
そこへ口の周りにスイカの種を付けたフィリアさんがやってくる。
「なるほど、スイカ割りか。私もやってみていいか?」
「いいよ。はいこれ、木の棒」
「いや、私はこれでやろう」
フィリアさんが弓を掲げてみせる。
「ちょっ、それはめちゃくちゃ危ないって!」
「心配しなくていい」
目隠しをして、自信満々に弓を構えるフィリアさん。
スイカは五十メートルも先だ。
次の瞬間、フィリアさんが放った矢が見事にスイカのど真ん中を貫いていた。
「えええ……どうやったの?」
「スイカの気配を感知すれば簡単なことだ」
だからスイカの気配って一体……?
それからというもの、この村にスイカ割りブームが到来した。
いかにみんなをあっと言わせるような方法でスイカを割ることができるか、村人たちが競争を始めたのだ。
セレンがプールを流れてくる大量のスイカを一瞬で斬り割ったかと思えば、フィリアさんが一キロも離れた先に置かれたスイカを矢で射貫いた。
もちろん挑戦者は二人だけじゃない。
槍使いのランドくんは、十個ものスイカを槍で一気に串刺しにするという技を披露。
怪力のゴアテさんは、手刀で地面を叩き、その衝撃で少し離れた場所に置いたスイカを割ってしまった。
そして火魔法でスイカを焼き割ったのは冒険者のハゼナさんだ。
スイカを丸ごと焼き尽くしてしまわないよう調整するのが難しかった、とは成功後の本人の談だ。
ちなみにマオ村から移住してきたマックさんの息子マンタさんは、アレでスイカを割って見せると豪語し、裸になったところを衛兵に取り押さえられた。
マックさんに懇願されたこともあり、しばらく更生施設に入ってもらうことになっている。
こうして一大ブームとなったスイカ割り。
あくまで一過性のものかと思いきや、この年以降も、夏の風物詩として村に定着することになってしまうのだった。
「……ていうか、こんなのスイカ割りじゃない」
※割ったスイカは後で美味しくいただきました。
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