第2話 この場所で村を作成しますか?

 僕を開拓地送りにするというのは、弟のラウルの発案だった。


 そもそも開拓などしようとは思わないような酷い場所で、開拓とは名ばかりのただの追放。

 餓死か、魔物に殺されるかして、あっさり死んでしまうかもしれない。

 それでも誰もそれに反対する者はいなかった。


 つまるところ、期待外れの役立たずなど、とっとと野垂れ死ねってことだ。


「ルーク、てめぇのギフトは『村づくり』なんだから、開拓ぐらい余裕だろ! ぎゃははは!」


 すっかり立場が逆転し、僕を見下すようになったラウルの笑い声は、今でも耳に残っている。

 ずっと日陰者だったせいか、捻くれ者に育ってしまったようだ。


 まぁでも、今のような乱世には、ラウルみたいな性格が向いてるかもしれない。


 実を言うと、僕はあまり戦うのが好きじゃない。

 剣の訓練は受けさせられていたし、上達は早かったみたいだけれど、本当は人を斬ったりなんてしたくないのだ。

 剣の先生からはよく「ルーク様は優しすぎます」と言われていたっけ。


「着きましたぜ」


 馬車が止まった。

 領都を出発して、およそ一週間の長旅だったけど、どうやら開拓地に到着したようだ。


「これは……話には聞いていたけど、それ以上かも……」


 見渡す限りの荒野だった。

 草木すらあまり生えておらず、ごつごつした岩山があちこちに点在している。


 北には広大な森が、東には巨大な山脈が見えるが、どちらも危険な魔境となっているらしく、近づいてはいけない場所だ。

 幸い魔境の魔物は魔境を好むため、滅多に荒野にまで出てこないという。

 ……まったくないと言い切れないのが、恐ろしいところだけど。


 荷物を降ろすと、馬車はとっとと行ってしまった。

 残されたのは、僕一人だけ――いや。


「ルーク様、聞いていた通り、本当に何もないところですね」


 唯一、こんな開拓地まで僕についてきてくれた従者がいた。


 お城でメイドをしていたミリア。

 年齢は聞いても教えてくれないけれど、たぶん二十歳手前くらいだろう。

 綺麗な黒髪とスタイルの良い長身が特徴的なお姉さんだ。


 元々僕の専属ではあったけれど、ミリアは優秀なメイドで、お城に必要な人材だった。

 こんなところについてくる必要なんてなかったはずだ。


「本当によかったの? ミリアならいずれメイド長にだってなれただろうに……」

「何をおっしゃるのですか、ルーク様。あなた様の専属メイドになったとき、わたくしは誓いました。これからどんなことがあろうと、あなた様の傍にお仕えし続けよう、と。その気持ちは今でも変わっておりません。ルーク様の行くところであれば、火の中水の中、どこへだってお伴いたします」

「ミリア……」


 僕のことをこんなにも思ってくれている人がいたなんて……。


「(ふふふ、なぜって、わたくしは大のショタ好き! 可愛らしいルーク様は、まさにドストライクなのですよ! ぐふふふ……)」


 あれ?

 なんかちょっと、背中の方がゾクッとしたような……?


 ……気のせいだよね、うん。

 ここには僕とミリアしかいないし。


「それではルーク様。早速ですが、あなた様には二つの選択肢がございます」

「選択肢?」

「はい。一つは、この見ての通りの不毛の大地を必死に開拓すること。今ある食糧はせいぜい一か月分です。一か月で、たった二人で、こんなところで作物を育てて収穫するなど、どう考えても不可能でしょう。もちろん向こうに見える森で危険を冒し、狩猟や採集で食いつなぐという手もありますが……。いずれにしても困難を極めることでしょう」


 改めて、僕はとんでもない場所に送られたんだな、と思った。


「もう一つは、わたくしとともにとっととここから逃げ出し、どこかの都市で暮らすことです。どうせ誰も監視しているわけではありませんから、実行は容易いかと」


 どうやらミリアのおすすめは後者のようだ。

 確かに、そっちの方がよっぽど現実的だろう。


 選択を迫られる僕。

 だけどその前に、一つだけ試してみたいことがあった。


「……僕の『村づくり』ギフト。授かった後も使い方が分からなくて、ずっとどんな力があるのか分からなかったけど……」


 何となくだけど、今なら使えるような気がするんだ。

 と、そのときだった。


〈この場所で村を作成しますか?〉


 そんな文字が、視界の端に浮かび上がったのは。

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