第102話 牢屋が動いてるだと

 ラウルが派遣した荒野の調査団。

 そこに街があることが確認できたことで、団を二つに分けるようだった。


 数人を報告のためにすぐに帰還させるためだ。

 そして残りの者たちで実際に街の中へと入り、さらに詳しく街の規模や戦力などの情報を調べ上げるという。


「お気を付けください」

「はは、俺を誰だと思っている。これより遥かに危ない橋を何度も渡ってきたんだぞ」


 そんな言葉を交わし、互いの健闘を祈り合う。

 まさにそのときである。

 突如として地面が消失したのは。


「「「……え?」」」


 一体何が起こっているのか理解できないまま、彼らは暗い穴の中へと落ちていく。


「ぐべっ!?」

「がっ!」

「痛っ!?」


 やがて彼らは硬い床に叩きつけられた。


 幸いそれほどの高さではなかったため、何人かが軽い怪我を負った程度だ。

 それでも突然のことに動揺を隠せない彼らは、自分たちが置かれた状況を理解するまで少しの時間を要した。


「ここは一体……?」

「え……ろ、牢屋……?」


 どういうわけか、彼らは牢屋の中にいた。

 石造りの壁に三方向を囲まれ、そして鉄格子によって外と隔てられている。


 鉄格子の隙間から外を覗くと、そこは延々と一直線に伸びる地下通路のようだった。

 と言っても、こんな見事な地下通路など、今まで一度も見たことがない。


 穴を落ちたと思ったら牢屋の中で、しかも謎の地下通路に設置されたものだったという、俄かには信じがたい事態。

 だが次に彼らを襲ったのは、それ以上に信じられない出来事だった。


 ズズズズズズズズズ……。


 なんと牢屋が彼らを乗せたまま動き出したのだ。


「牢屋がっ……牢屋が動いてるだとっ!?」

「な、何が起こってるんだ!?」

「かあちゃあああんっ!」


 次から次へと起こる怒涛の展開に、彼らはもはや言葉を失い、恐怖に怯えるしかない。


 やがてゆっくりと牢屋が停止した。

 ひとまずホッと安堵の息を吐く彼らだったが、そこへさらなる恐怖が待っていた。


「いっひっひっひ、あんたたち、よく来たねぇ」

「「「っ!?」」」


 不気味な笑い声が聞こえてきたかと思うと、鉄格子の向こうに一人の老婆が現れたのだ。

 小柄で、いかにも非力そうな老婆である。


 しかし何故だか分からないが、彼らの背筋をぞっと冷たいものが走る。

 寒気でぶるりと身体を震わせる者もいた。


「あ、あんたは何者だ……っ!? 私たちを一体どうするつもりだっ!?」

「いっひっひっひ、それを教えてやる前に、まずはあんたたちの目的を教えてもらわなくちゃねぇ?」

「ひっ……」


 皺くちゃな顔に嗜虐心いっぱいの笑みを浮かべる老婆に、熟練の諜報員も頬を引き攣らせ、確信するのだった。

 このババアはヤバい、と。



   ◇ ◇ ◇



 村に近づいてきた一見移民風の一団。

 だけど僕の侵入者感知スキルは、彼らを危険な存在だと判断したらしく、警鐘を鳴らしてきたのだ。


 そこで彼らの足元まで伸びる地下通路を作り、そこへ施設カスタマイズで穴を開けて彼らを落とす。

 落下地点には、あらかじめ天井に穴を開けた状態の牢屋を作っておいた。


 そうして彼らが落ちた後に、その穴を封じてしまえば、自動捕獲が完了。

 後は配置移動を使い、村まで牢屋ごと運んでくればいい。


 彼らがラウルの派遣した調査団だということは、いつものようにおばあちゃんが吐かせてくれた。


「やはりまたラウル様の手先だったようですね」


 ミリアが冷たい口調で言う。


「うーん、でも、こんなことしちゃってていいのかな?」

「何を言っているのですか? 拷問で話を聞き出したネマ老婆によれば、あの中にはルーク様の暗殺を指示された者までいたというのですよ?」

「そうよ! あっちは容赦する気なんてまったくないんだから!」


 憤慨した様子でセレンも割り込んできた。


 そう言われてしまうと、反論できない。

 ……こっちは別にラウルと敵対しようなんて思ってないんだけどなぁ。

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