第339話 減るもんじゃねぇんだからよ
「ぎゃはははははははははっ! それでてめぇは女の格好でうちにやってきたってわけか! ぎゃはははははっ!」
洗いざらい話したら、リリさんにめちゃくちゃ笑われてしまった。
これは……もしかして、あんまり怒ってない?
僕はチャンスと見て、一気に持論を展開させる。
「こ、この身体はあくまでも影武者なんだ! 確かに影武者はこの集落のルールに抵触したかもしれないけど、本体の僕がこの集落に立ち入ったことは一度もなくて!」
なのでもし処刑するというのなら、この影武者だけにしてもらいたい。
「なるほど……だが、さっきまでのてめぇと今のてめぇじゃ、随分と受け答えの質が違うなァ?」
「ぎくっ」
「もしかして、影武者を本体が直接操ることもできるんじゃねぇのか?」
「ぎくぎくっ」
「つまり、あたしの推測が正しければ、今ここにいるのは影武者でありながら、中身は本体っつーことだ。それは果たして、本体が集落に入ったことはないと言えるもんかねぇ?」
「ぎくぎくぎくっ」
な、なんて鋭い……。
たった今、影武者のことを知ったばかりだというのに、そこまで推理してしまうなんて。
「影武者が見ている光景を、本体が見ることだって可能かもしれねぇ。そうなると……てめぇ、前に一度、一緒に風呂に入ったことがあったよなァ?」
「み、見てない! 見てないから!」
「ほう? その反応ってことは、一緒に風呂に入ったのは知ってるわけだ」
「っ!?」
ダメだ、何か言うたびにボロが出て、追い込まれてしまいそう……。
「あ、あたしも一緒に入ってた……男と一緒に、お風呂に……うぅ……」
顔を赤くし、涙目で呻いるのはララさんだ。
そもそも嫌がる僕を無理やりお風呂に入れたのが悪いんでしょ!
と言いたかったけれど、またリリさんに付け込まれそうなので我慢した。
「くくく、まぁてめぇには色々と恩があるからな。処刑だけは勘弁してやろうじゃねぇか」
「ほ、本当っ?」
ん? 処刑
「ただしその代わり……ち〇ち〇はしっかり拝ませてもらうぜ! てめぇら、かかれ!」
「ぎゃあああああっ!?」
「はぁ、はぁ、はぁ……くそ、あちこち逃げやがって!」
リリさんが肩で息をしながら、忌々しげに吐き捨てる。
「逃げるに決まってるよ!」
「いいじゃねぇか、別に。減るもんじゃねぇんだからよ」
「そういう問題じゃない!」
リリさんの号令の元、僕の服を脱がそうと集落の女性たち全員が一斉に襲い掛かってきたものの、それをどうにか凌ぎ切っていた。
まぁこっちは瞬間移動が使えるのだから、むしろ逃げられて当然だけど。
「ちっ、仕方ねぇ。今日のところはてめぇのアレを拝むのは諦めてやるか」
「今日のところは……?」
もしかして今後も事あるごとに狙ってくるつもりだろうか……。
絶対に脱げない下着でも作ってもらって、それを穿いておいた方がいいかもしれない。
ともあれ、実は少しホッとしていた。
何せずっと嘘をつき続けていたのだ。
男だとバレてしまったことで、肩の荷が降りたのだろう。
それに、これでもう、女の子のフリをしなくて済むのだ。
つまりは、女装姿からも完全に卒業できるということ!
そう心の中で歓喜していると、リリさんがとんでもないことを言い出した。
「あ、ちなみに今後もあたしら獣人族のとこに来るときは、その女装姿は必須な」
「……はい?」
「もちろん、この集落だけじゃねぇぞ。他の集落に行くときもだ」
「な、何で!? この集落だけというならまだ理解できなくもないけど、他の獣人たちのところでも!?」
「まぁうちの集落以外は、どうしても嫌だというなら別に構わねぇが……他の連中もてめぇのことを本当の女だとばかり思ってるぜ? だから今まで、そういうつもりで接してこられたんじゃねぇのか?」
言われて、僕はハッとする。
意識を移していないとき、影武者はオートモードで動いてもらっているのだ。
知らないうちに、どこかで男だとバレたらまずいような行動をしているかもしれない。
「悪くは言わねぇから、今後も騙しておいた方がいいと思うぜ? あたしらなんかより、よっぽど恐ろしい連中もいるからよ」
僕はその場に膝をつき、がっくりと項垂れた。
「せっかく今度こそ、この恰好から解放されると思ったのに……」
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