第338話 バレそうなんだけど
その日、恐れていたことが起こった。
獣人たちの集落に置いている影武者から、深刻な事態を報告してきたのだ。
『女装している男であることがバレそうなんだけど』
『ぎゃーっ!』
村で開催された武闘会。
そこで色々あって、一定期間、女装し続けるという罰を受けたときに、男子禁制と知らずに猫族の女性たちの集落に立ち入ってしまった。
そこではもし男子が許可を得ずに侵入すると、問答無用で処刑されてしまうという。
そのため、罰の期間が終わった後も、あそこの影武者だけは、女装姿を続けさせていたのだ。
『な、何でバレそうなの……?』
『最近、人族と少しずつ和解し始めていることもあって、一部の獣人たちが人族の街に行ったらしいんだ。たぶん、カイオン公爵の領都だと思うけど、そこでどうやら偶然にも、女装してない影武者を見ちゃったみたいでさ。一体どういうことだと街の人に聞いたら……』
『……僕のことを話しちゃったってことか』
半信半疑の人も多いようだけど、僕がギフトで影武者を作れるというのは、国内ならすでに各地で知られているからね。
『今ちょうど問い詰められてて。服を脱がして確かめてやろうかって話までされてる』
『そんな手荒い手段はやめて!』
大ピンチのようだ。
影武者では対処し切れないだろうと判断して、意識を女装した影武者へと飛ばした。
すると僕は猫族の女性に羽交い絞めにされ、すでに穿いていたスカートがパンツの真ん中くらいまでずり下ろされていた。
「って、もう脱がされかけてる!? ちょっ、やめてっ!」
「おい、てめぇ、ちゃんと洗いざらい話しやがれ。さもなけりゃ、てめぇのち〇ち〇、この集落中の女たちどころか、全獣人族の女たちに観賞させてやるぞ?」
そんな恐ろしい脅しをしてくるのは、猫族の女性たちのリーダーをしているリリさんだ。
「は、話したら脱がさないでくれるの?」
「ああ、観賞するのはこの集落中の女たちだけで勘弁してやるよ」
どのみち観賞はされてしまうっぽい。
「もちろん処刑はそれとは別な?」
「ひいいいっ!?」
「リリ姉さん! こんな可愛い男の子がいるわけないだろ!? きっと何かの間違いだって!」
一方、リリさんの妹であるララさんは、それを止めようとしてくれている。
「本当に間違いかどうか、実際に見てみりゃ分かるだろ」
「……だ、だからって」
「なんだ? ララ、てめぇもしかして、男のアレを見るのは初めてか? おいおい、そんなに身構えるようなもんでもねぇぞ」
「べべべ、別にそういうわけじゃないし!? よ、よぉし! あたしのこの目で、しっかりと確認してやるからな!」
目を大きく見開き、見る気満々になるララさん。
「おい、やっちまえ」
リリさんの命令を受けて、屈強そうな猫族の女性が、僕のスカートを下まで完全に下げてしまう。
……露になった下着は一応女性モノだ。恥ずかしい!
「さぁて、たっぷり拝ませてもらうとするか、てめぇの本体をなァ……じゅるり」
「なんかちょっと楽しんでない!?」
影武者はいつでも消すことができる。
だけど、新たに作り出すには結構な村ポイントが必要なので、できれば避けたい。
かといって、このまま大勢の前で下半身を晒すのはもっと御免だ。
影武者といっても、その身体は僕自身と完璧に同じなのだ。
「瞬間移動」
「「「へ?」」」
一瞬にして目の前から僕の姿が掻き消え、呆然とする獣人たち。
「き、消えた……?」
「おい見ろ! あそこだ!」
「いつの間に屋根の上に!?」
僕は近くの家の屋根の上に逃げていた。
そこで脱がされたスカートを穿きなおしつつ、
「分かったよ。こうなったらすべて話すことにする」
そうして僕は彼女たちに語ったのだった。
なぜ女装姿でこの集落に立ち入らざるを得なくなってしまったのか、その悲劇の始まりを……。
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