第340話 しっかり学習させておかないと
その日、僕は国王陛下に呼び出されてしまっていた。
「もしかして、また何か面倒な案件を押し付けられたりするんじゃないよね? それとも東の国々と勝手に貿易を始めちゃったことを怒られるとか……?」
あまり乗り気にはなれないけれど、応じないわけにはいかない。
幸い瞬間移動を使えば、王宮まで一瞬だ。
というか、瞬間移動を使えること、黙ってたらよかったなぁ……僕がいつでも一瞬で出向けるって分かってるからこそ、気軽に呼ばれちゃう気がする。
最近は僕の移動先として、専用の部屋まで作られてしまっているほどだ。
「ルーク様、お待ちしておりましたわ」
「……王女様」
そしてこの部屋には、必ずと言っていいほど、ダリネア王女が待ち構えていた。
「ふふ、嫌ですわ、ルーク様。わたくしのことは、ダーリと愛称で呼んでくださいと何度も申し上げておりますの」
「いや、そう言われても、一国の王女様をそんなふうには……」
僕はどうにか無茶な要求を突っ撥ねようとすると、王女は悲しそうに眉を伏せて、
「どうしてですの……影武者様の方は、ダーリと呼んでくださっていますのに……」
「…………後でしっかり学習させておかないと」
王宮には常に一体の影武者を置いていた。
王都での必要な作業は終わっており、とっとと引き上げさせたかったのだけれど、王様や王女様に懇願されて、王宮内の一室に住まわせたままなのである。
「それでは代わりに、わたくしがルーク様のことをダーリンとお呼びしちゃったりしても?」
「何でそうなるの!?」
って、僕は王女様と話をしにきたわけじゃない。
「ええと、王様を待たせていると思うので……」
やり取りを切り上げて謁見の間へ。
「おお、ルークよ、よく来てくれたな」
玉座に腰かけて待っていたのは、このセルティア王国を治める国王、ダリオス十三世だ。
年齢は三十代後半。
宮廷貴族の傀儡と化していた先代の国王たちとは対照的に非常に優秀で、アルベイル家を打倒した後は、内乱状態にあったこの国を再び王権によって一つに纏め上げつつあった。
「今回はどのようなご用件でしょう?」
「……そう身構えてくれるな。確かにいつも貴殿には頼りっぱなしではあるが……今日は余の方に用事があるわけではない。貴殿とぜひ会いたいという者がおるのだ」
「会いたいという人……?」
一体誰だろうと首を傾げていると、王様の呼びかけを受けて、部屋に何人か入ってくる。
その中の一人、まだ二十代半ばほどと思われる若い女性が、代表して口を開いた。
「ルーク様、お会いできて大変光栄です。私の名はイアン。ゴバルード共和国の使者でございます」
「ゴバルード共和国……? というと、確かこの国の西の?」
西側でセルティア王国と接している国の一つ、それがゴバルード共和国だ。
君主を持たず、議会によって統治されているこの国は、複数の自治国が集まって形成された連合国家でもあるという。
ただしそれでも、国の規模としてはセルティアより少し小さい。
「左様でございます」
「ええと、隣国の使者さんが、僕に何の用事でしょうか……?」
「実はルーク様が治める荒野の都市の噂をお伺いいたしまして。なんでも、ごく短期間のうちに、先進的で画期的な素晴らしい都市を作り上げたと聞いております」
一応、村だけどね?
「我々といたしましては、ぜひともその都市を視察させていただき、我が国の街づくりに知見を活かしたいと考えていたのです」
「うーん……たとえ他国の人だろうと、うちでは来る人を拒むようなことはしてないので、視察自体は幾らでもしていただいて構わないです。ただ、あんまり参考にはならないんじゃないかな……」
なにせギフトによって作った村だ。
例えばインフラの仕組みなどを聞かれても、まったく答えられないだろう。
「ありがとうございます!」
だけど、イアンさんを筆頭に、使者団の人たちがめちゃくちゃ喜んでいる。
ぬか喜びになっちゃうと悪いなぁ。
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