第214話 負ける気はないわぁ
「ルーク! 本戦出場を決めたわ!」
「うん、見てたよ、セレン」
「思ってたより圧勝だったけど!」
五連続で勝ち抜いて、セレンはあっさり本戦出場を決めてしまった。
ずっと危なげない戦いだったけど、傍から見ても随分と気合が入っていたように見えた。
「だって、是が非でも優勝したいもの! そうしたら……何でも願いを……」
「え?」
「わ、私が村一番だってことを証明したいのよ!」
そこへセリウスくんがやってくる。
「姉上、ぼくも本戦出場を決めましたよ」
「セリウス!」
「本戦の大舞台で、必ず姉上を倒してみせます」
セリウスくんは姉のセレンのことをライバル視しているようだ。
「ふむ、さすがだな、二人とも」
「あ、フィリアさん」
「~~~~~~っ!」
フィリアさんがやってくるや否や、セリウスくんは慌てて僕の後ろに隠れた。
うーん、まだこんな状態なんだ……先が思いやられるね。
「もしかしてフィリアさんも本戦出場を決めたの?」
「ああ。エルフの戦士長として、最低限の実力を示せてホッとしている」
そんなやり取りをしていると、急に周囲が陰った。
後ろを振り返ると、そこにいたのは筋骨隆々の巨漢――いや、ゴリちゃんだ。
「うふふ、本選がすっごく楽しみねぇ~♡」
「ええと、ゴリちゃんも勝ち上がったの?」
「そうよん。だけどびっくりしちゃったわぁ。この村、すっごく強い人ばっかりなんだもの」
そう言うゴリちゃんだけれど、僕は彼が屈強な村人を、拳一つで場外まで吹っ飛ばしてしまうところを目撃していた。
「それでも、負ける気はないわぁ。だぁって、是が非でも優勝したいんだもの。そして村長ちゃんにぜぇったいお願いを叶えてもらうの♡」
「~~~~っ!」
ぞっと背筋が寒くなった。
な、何をお願いしてくるつもりだろう……。
どうやらセレンもかなり警戒しているようで、
「一番の強敵かもしれないわね!」
「ふふ、お手柔らかにね♡」
「そんなことしないわ! 全力でいかないと!」
「あら、それじゃあ、アタシも全力を出しちゃうわよ?」
それから続々と本戦出場者が決まっていき、ついに三十二人が出そろうこととなった。
バルラットさんにノエルくん、ゴアテさん、それにペルンさん、ランドくん、アレクさん、ハゼナさん、ガイさん、ドリエル、バンバさん、バザラさんなど、予想していた通りの人たちが順当に上がってきた印象だ。
彼ら以外も全員がギフト持ちだし、本戦はかなりハイレベルな戦いになるだろう。
そうしていよいよ本戦が始まることとなったのだけれど、驚いたことに五万人を収容できる本戦の会場の半分以上が埋まっている。
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」
唸るような大歓声が轟き、今か今かと試合が始まるのを待っていた。
たぶん、三万人はいるだろう。
「えええ……何でこんなに? 村の人口はせいぜい二万くらいなのに」
「すでに噂を聞きつけて、村外から見に来た人が多いのでしょう。さすがルーク様がお考えになったイベントです。ここまで人々を引き付けるなんて」
ミリアが持ち上げてくれるけど、別に僕がゼロから考えたわけじゃないんだよね……。
初開催でこれなら、今後はチケット制にしないとダメかもしれない。
「ルーク様! あたくしも見に参りましたわ!」
「って、王女様? ちょ、王様まで!?」
「うむ、楽しそうなイベントをしておると聞いて、デンシャでな」
王族まで見に来ていた。
僕は慌てて貴賓席を設けようとしたけれど、
「いや、それには及ばん。一観客として楽しませてもらおう」
「そ、そうですか? じゃあ、この辺は一応、関係者席になってるんで、好きなところに座ってください」
フィールドへの出入り口に近い一帯で、待機中や試合後の出場者用の席にもなっている。
試合も見やすい場所なのでちょうどいいだろう。
「では失礼しますわ」
「……」
なぜか王女様は僕のすぐ隣の席に座ってきた。
それを受けて、反対側のミリアの頬がぴくぴくと動く。
……け、喧嘩しないでよ?
他にも観客席には、リーガルの代官ミシェルさんや、ドルツ子爵とフレンコ子爵、それにセレンやセリウスくんのお父さんの姿まであった。
彼らは一般客に交じって見るようだ。
「さて、そろそろ対戦表が発表されるはずだけど……」
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