第257話 今は深く反省しております
国王ダリオス十三世は面食らっていた。
アレイスラ大教会のアルデラ教会長が急に謁見を求めてきて、先ほどまで非常に憂鬱だった。
というのも、王国中の教会を束ねるアレイスラ大教会の教会長には、国王といえども頭が上がらず、過去に幾度となく苦渋を味わわされているためだ。
特にアルデラ教会長は傲慢で欲深く、ダリオスは可能な限り距離を取っている相手だった。
しかし近年は肥え過ぎて、王宮に訊ねてくることなどなかったはずである。
だがダリオスの前に姿を見せたのは、まるで別人ではないかと思うほど、スマートな身体つきをしたアルデラ教会長だった。
かつては呆れるほど豪奢に飾り立てていた衣服も、謁見に失礼がない程度に地味で落ち着いたものへと変わっている。
「ほ、本当にアルデラ教会長であるのか……?」
赤の他人がやってきたのでは、と疑うダリオスの前に跪いて、アルデラ教会長(?)は真っ先にそれを否定した。
「ダリオス国王陛下、お久しぶりです。はい、私は間違いなく、アレイスラ大教会の教会長アルデラです」
話し方まで記憶にあるそれとは完全に別人である。
以前は横柄そのものの態度と口調で、玉座の前でも跪くようなことなんてあり得なかった。
しかし声だけは、体型が変化したためか少し違いはあるものの、確かにアルデラ教会長のそれである。
「い、一体、何があったというのだ……?」
もしかして何かに憑りつかれているのではないか、と逆に不安になってしまう。
そんなダリオスに、アルデラ教会長は晴れやかな顔で言う。
「国王陛下、私は生まれ変わったのです」
「生まれ変わった……?」
「今までの私は、金や権力に目が眩み、神に仕える身としてあまりにも恥ずべき生き方をしてまいりました……。その過ちを悟り、今は深く反省しております」
「う、うむ……」
確かに教会の腐敗ぶりは酷く、その最たるものと言っても過言ではなかったのが、アルデラ教会長である。
まさかその当人が急にこんな風に心を改めるなんて、思ってもいなかった。
「豚のように肥えていたあの醜い姿など、今となっては羞恥の限りです。そして国王陛下に対するこれまでの無礼な態度の数々……誠に申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げられ、ダリオスは困惑するしかない。
「ところで陛下、本日は重大な話をしにまいりました」
「重大な話?」
アルデラ教会長の変貌ぶり以上に重大なことはないだろうとは思いつつも、神妙な顔で耳を傾けるダリオス。
そして教会長の告げた内容に、再び面食らうこととなったのだった。
「アレイスラ大教会をはじめとする全教会で祝福の儀のための献金を無くし、誰でも気軽に祝福を受けることができるようにしたいと考えています」
◇ ◇ ◇
この村を後にしたアレイスラ大教会のアルデラ教会長は、そのまま王都へと向かい、そこで国王陛下と会談を行ったらしい。
その結果、祝福の献金が無くなることになった。
つまり今後は、貴族や資産家でなくても、誰もが簡単に祝福を受けられるというわけだ。
以前、王様に祝福のことについて相談したときは、貴族はともかく、教会が絶対に認めないだろうとの話だったのに、なぜか急にその教会側から申し出てきたのだという。
王様もアルデラ教会長の変わりようには驚いたようだ。
「さらに先日、宣言されていた通り、この村の教会が正規の教会として認定されました。わたくしもこれで本当の神官です」
と、ミリアが報告してくる。
僕のギフトで勝手に作り出した村の教会は、今までずっと非公認のものだった。
異端の教会として、正規の教会に目を付けられたら困るということで、住民や旅人が増えてからは地下に潜ませていたくらいだ。
もちろんミリアも正式な神官として認められていなかった。
「ぜひ目立つ場所に移動させましょう。ついでにもっと立派にしていただきたいです。総本山があのサイズでは示しが付きませんから」
「総本山?」
「いえ、何でもありません」
「……?」
王国教会の総本山は、変わらずアレイスラ大教会のはずだけど……。
「それにしてもアルデラ教会長は何で急にそんなに変わったんだろう? 王様は、人格からして全然違うと言っていたけど……」
「わたくしには分かりかねますが……神の声でも聞いたのではないでしょうか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます