第343話 栄養補給のためのものでござる
イアンたちゴバルード共和国の使者団は、数日ほど村に滞在。
幾度となく驚愕させられっぱなしだった彼らは、やがて帰国の途に就くことに。
「何か参考になったことはありましたか?」
「もちろんです! 本当にありがとうございました!」
「そうですか。それならよかったです。またいつでもお越しください」
ルーク村長に何度も礼を言って、彼らは村を発った。
帰りもまた行きと同様、国境近くの街まで電車の予定だったが、
「影武者に瞬間移動で送らせますね」
と言われて、本当に一瞬で両国の国境に飛んでしまった。
その影武者が帰っていったところで、イアンは緊張の糸が解けたのか、大きく息を吐く。
「それにしても、とんでもないところでしたね……予想の遥か上をいっていました……」
「左様ですな。しかもあれがすべて、あの少年のギフトによるものだとは……」
使者団の一人が頷くが、逆にイアンは首を振ってそれを否定した。
「いえ、それだけではないでしょう。確かにルーク様のギフトの力は大きい。ですが、彼を慕う村人たちの協力があってこそ、あれほどの都市を作り上げることができたのだと思います。そしてそれはひとえに、ルーク様のあの人を惹きつける大いなる魅力によるもの……それもそのはず」
そこでイアンは胸の内をぶちまけるように叫んだ。
「だってルーク様、めちゃくちゃかわいいんですものおおおおおおおおおおおおおおっ!」
鼻息を荒くしながら、彼女は溢れ出る感情のままに主張する。
「母性っ! 私の中の母性が大爆発してしまいますっ! 身長が伸びてほしいですって!? 何をおっしゃってるのですか! そのまま! そのままが良いに決まってるでしょう!?」
「お、落ち着いてくだされ、イアン様……っ!」
「はっ? も、申し訳ありません。少々取り乱しました」
「「「……」」」
若くして使者団のリーダーに選ばれたイアンの乱心に、他の使者たちがドン引きしている。
「ごほん。もちろん、見た目だけではなく、素晴らしい人格者であることも、彼が慕われる大きな理由でしょう。そんな彼を利用することになるのは心苦しい限りですが……すぐに国に戻り、取るべき手を考えましょう。私たちに残されている時間はそう長くありません。なんとしてでもルーク様に取り入って、そのお力をお借りせねば……」
◇ ◇ ◇
ゴバルード共和国の使者団を見送った後、僕は訓練場に来ていた。
「ぜぇぜぇぜぇっ……こ、これはなかなか、キツいでござる……っ!」
ドタドタドタと大きな音を立てながら、アカネさんがランニングマシンの上を走っている。
最近開発されたこの機械は、ずっとその場にいながらランニングができるというもので、訓練場内に十台ほど設置され、特にダイエットを試みる女性たちによく利用されていた。
この村の食事にハマってしまったせいで、すっかり太ってしまったアカネさんもまた、これを利用してダイエットに挑んでいるらしい。
「しかし、なんのこれしきっ! ぜぇはぁっ! 怠けてしまった己の弱い心に鞭を打ち、必ずや痩せてみせるでござるよぉっ! もぐもぐもぐ」
「ちょっと待ったぁぁぁっ!」
僕は思わず叫んでしまう。
「何でござるか、ルーク殿? 拙者は今、心を改め、貴殿に言われた通り、ダイエットに勤しんでおるところでござる!」
「じゃあ、その手に持ってるものは何?」
「これは……栄養補給のためのものでござる」
「うん、確かに痩せると言っても、まったく食べないというのはよくないと思うよ。でもね……明らかに多すぎるでしょ!?」
ランニングマシンで走るアカネさんの手には、ドーナツが握られていた。
それも一つだけじゃない。
右手に五個、左手に四個の計九個だ。
チョコレートや砂糖がコーティングされていて、どう考えてもハイカロリーである。
「量もだけど、そもそもドーナツ自体が、ダイエットのときに食べるようなものじゃないよね?」
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