第342話 王様じゃないですから

 ゴバルード共和国の使者団一行を、ひとまずこの村の中心にある宮殿に案内しようとしたときだった。


「あっ、村長様だ!」

「村長様~っ!」

「また遊ぼうぜ~っ!」


 駆け寄ってきたのは村の子供たちだ。

 今は客人が来ているので後にしてほしいと言おうとしたところで、その中の一人が自慢げに主張した。


「ねぇねぇ村長様! あたし、また背が伸びたんだ! たぶんもう、村長様より高いかもしれないよ!」

「えっ?」


 まだ十歳の少女だ。

 確かにこの子は同年代と比べると大きい方かもしれないけれど、さすがに十四歳の僕には及ばないはず。


「ほら!」

「っ!?」


 横に並ばれると、すぐ目の前に彼女の顔があった。

 目線がほぼ一緒……いや、少し僕の方が低い……?


「そ、そんなはずは……」


 愕然としながらも現実を受け入れられないでいると、他の子供たちが残酷な言葉を口にした。


「ほんとだ! 村長様の方が低い!」

「身長ぬかしてるよ!」

「すでに一センチくらい抜いてる!」


 がーん……。

 しかも一センチも僕の方が低いだって……?


「あはは、このまま行ったら、そのうちあたし、村長様を見下ろしちゃうね!」

「ぼ、僕もまだ背が伸びてる途中だし!? これから再逆転する可能性もあるし!?」

「伸びてるって……村長様、二年前からほとんど変わってないでしょ?」

「うっ」


 彼女は最初期にこの村に来た難民の一人だ。

 当時は僕の方が明らかに大きかったのに……。


「そんな……」

「落ち込まなくていいよ、村長様! だって村長様はそのままが一番かわいいもん!」

「ぐはっ」


 十歳の女の子に「かわいい」と言われて、僕はよろめいた。


「僕は男らしくなりたいのに……どうして……」


 現実に打ちひしがれていると、イアンさんが声をかけてくる。


「大丈夫ですよ、ルーク様! きっとまだまだ背が伸びますから!」

「ほ、本当ですか……?」

「本当です! 女性と違って、男性の方が伸びるピークが遅いとされてますし! まだ十四歳なら再逆転のチャンスは大いにありますよ!」


 まだチャンスはある……そうだ、諦めたらそこで試合終了だ。


「そうですよね! 頑張ればきっと伸びますよね!」

「その通りです!(ルーク様は身長がコンプレックス、と……これは有力な情報をゲットできましたよ!)」


 子供たちと遊ぶのは影武者に任せて、使者団を宮殿へと連れていく。

 宮殿内にはこういうときのために、客人が宿泊できるフロアもあるのだ。


「あの、ルーク様……私の見間違いでなければ、先ほどルーク様と瓜二つの姿をした方がいきなり出現されたように見えたのですが……」

「あれはギフトで生み出した僕の影武者です。自律行動してくれるので便利なんですよ」

「……」


 天高く聳え立つ宮殿を前に、ひとしきり驚愕した使者団を中へ案内する。


「とまぁ、各フロアをそんな感じで利用してます。ちなみに今回、皆さんに泊まっていただくフロアは十階にあります」


 宮殿のことを一通り説明すると、イアンさんが訊いてきた。


「ところで、謁見の間はどちらに?」

「そんなところはありませんよ? 僕、王様じゃないですから」


 王様が謁見の間として利用しそうな広い部屋はあるけどね。


 僕はただの村長なので、客人と話をしたりするのは普通の会議室だ。

 親しい相手だと、最上階の居住フロアに来てもらう。


「はっ! そういえば、失念しておりました! こちら、ぜひお受け取りください。我が国の名産品でございます」


 そう言ってイアンさんが差し出してきたのは、壺や食器などの工芸品だった。

 思わず目を奪われるような鮮やかな色彩と美しく繊細な形状で、相当な職人技によって作られた高級品だろう。


 こんな高価そうなものを貰ってしまっていいのかと、一瞬断りそうになったけれど、さすがに受け取りを拒否するのはかえって相手に失礼だ。


「いいんですか?」

「もちろんです。視察を快く受け入れてくださったお礼でございます。むしろ、果たしてこのようなもので十分なものか……」

「いえいえ、十分すぎるくらいですよ。……代わりと言ってはなんですけど、今からこの村の名物料理をご用意させていただきますね」










「「「うめええええええええええええええええええええええええっ!?」」」

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