第367話 この世界で最も偉いのだぞ

 破壊された壁の向こうから、巨大な生き物が姿を現す。

 いや、生き物……じゃない?


 全長二十メートルを超える大きなトカゲのような形状で、最初はドラゴンかと思った。

 だけどその身体を覆うのは鱗ではなく、明らかに金属製の装甲だ。


「何よ、あれは!?」

「ドラゴン? しかし、生き物の気配を感じぬが……」

「そうねぇ、生物じゃなさそうよぉん」


 恐らくこれも巨人兵と同じ兵器なのだろう。

 そのとき、機械仕掛けのドラゴンから、人の声が聞こえてきた。


「ふははははははっ! どうだ、驚いたであろう、侵入者ども!」


 スピーカーのようなものから響き渡るのは、先ほどの大臣の声だ。

 どうやら巨人兵同様、あの中に乗って操縦しているらしい。


「ゼルス!? おい、何をやっている!? 早く余を助けんか! いや、もしかして助けに来てくれたのか……? 逃げたわけではなかったのだな! だがその兵器はすごいな! あとで余にも乗らせるのだ!」


 皇帝が怒ったり喜んだりしている。

 しかしそんな皇帝を無視して、大臣は続けた。


「この兵器の名は〝機竜〟! 巨人兵と同じく古代遺跡から発掘した兵器だが、量産型の巨人兵とは訳が違うぞ! たった一機しか見つかっておらぬが、その性能は巨人兵を遥かに凌ぐ! こいつにかかれば、生身の人間など地を這う蟻も同然だ! ふははははははっ!」


 ズドンズドンという大きな地響きと共に、機竜が前進する。

 そのまま皇帝を踏み潰してしまうのではないかというところで、いったん停止した。


「あ、危ないではないか!? もう少しで余がぺしゃんこになるところだったぞ!?」

「……」

「何とか言え、ゼルス! ぜ、ゼルス……?」


 直後、機竜が首を伸ばし、その鋭い顎で皇帝の身体を捕らえた。


「~~~~~~っ!? な、何をするのだ!?」

「くくく、相変わらず愚かだな。自分が一番の無能だとも知らずに」

「何だと!? お前! 余が無能だと!? 余は皇帝だ! この世界で最も偉いのだぞ!?」

「今まではそう教えてきた。だがそんなものは真っ赤な嘘だ。真実を教えてやろうか? 一人では何もできぬ貴様は、ただのお飾りの皇帝だ! 真にこの世界を支配するのはこの私っ! 貴様はそのための道具に過ぎん!」

「っ……」


 どうやらこんな状況で、大臣が謀反を起こしたらしい。


「こんな場所まで侵入されるなど完全に予想外だったが、考えてみればむしろ絶好の機会! ここで貴様を殺しても、その罪をやつらに擦り付けることができるのだからなァ!」


 大臣の操作で、機竜が皇帝を咥えた顎をゆっくりと閉じていく。


「いいいいいいたいいたいいたいいたいっ!? や、やめろ、ゼルス!? やめてくれぇっ! わ、分かった! お前に皇帝の座を譲ろう! だ、だから、命だけは助けてくれえええええっ!」


 皇帝が涙ながらに訴えるも、大臣は本気でヤるつもりだ。

 うーん、機竜で嚙み殺すなんていう特殊な殺し方だと、死因で犯人がバレちゃうんじゃ……?


 そのときだった。

 機竜の頭部目がけ、一人の巨漢が横から凄まじい速度で飛んでいった。


「ぼーや、舌を噛まないよう口を閉じておくのよぉん!」

「っ!?」

「どっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」


 機竜の顎へ、ゴリちゃんが強烈な蹴りを見舞った。

 凄まじい轟音が鳴り響き、機竜の顎が開いてそこから皇帝の身体が弾き飛ばされる。


「うわあああああああっ!?」


 宙に放り出され、地面に叩きつけられそうになった身体をキャッチしたのは、ガンザスさんだった。


「危ないところだったわね……危ないところだったな!」


 師弟のナイスコンビネーションだ。


「っ!? ば、馬鹿なっ!?  この機竜に、生身の人間がこれほどの衝撃を与えるなど……っ!」

「うふぅん、幼い皇帝を裏で操った挙句、排除して自分がすべての権力を握ろうとするなんて、反吐が出ちゃうほど醜い大人ねぇ? そんな悪党は、アタシたちがお仕置きして、あ、げ、る♡」

「ひぃっ……」


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