第366話 これは皇帝命令だぞ

「ぐっ……無念……」

「陛下……お逃げ……ください……」


 兵士二人をあっさりと無力化させた僕たちは、逃げた皇帝と大臣の後を追いかけた。


「ええと、確か、こっちだったはず」


 宮殿内は複雑に入り組んだ構造になっていて、普通はいったん見失うと捜すのは困難だろう。

 だけどヴィレッジビューを使い、二人の行方を追っていたため、迷うことはなかった。


 それにしても、まったく敵兵と遭遇しない。


「恐らくこの場所そのものが、ごく一部の者たちしか立ち入れないところなのだろう」


 と、マリベル女王。

 彼女が言う通り、この辺りは恐らく後宮だ。


 そのため時々見かけるのは若くて奇麗な女性ばかりである。

 まだ皇帝はそういう年齢ではないはずだけど……。


「あれ? おかしいな……確かにこっちの方に逃げてきたと思うんだけど……」


 と、そこで僕は足を止めた。

 その先にあったのは行き止まりだった。


「何よ、先に進めないじゃない」

「いえ、姉上。明らかに不自然な行き止まりです。何かあるかもしれない」


 セリウスくんが指摘する。


「もしかしたら隠し扉かも……?」

「きっと簡単に開けられるようにはなってないと思うわぁん。壊してみるのが一番よぉ♡ ……どっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」


 ゴリちゃんが豪快な回し蹴りを繰り出す。


 ドオオオオオオオオオオオオオンッ!!


 壁が爆砕し、大きな穴が開いた。


「な、なんという凄まじいパワーだ……」

「この材質、かなり硬いものを使用している……これを一撃で粉砕してしまうとは……」

「あの御仁、何者なんだ……色んな意味で」


 各国から招集された精鋭たちが頬を引きつらせている。

 やっぱりゴリちゃんの凄さは国境を超えるらしい。


「うふぅん、見て、あったわぁん♡」


 ゴリちゃんが嬉しそうに指さす先には、下りの階段があった。

 本当に壁の向こうに隠されていたみたいだ。


 僕たちはその階段を慎重に降りていく。

 さらに階段の先には長い廊下があって、そこを進んでいくと、


「ここは……工房?」

「見て、あそこ、巨人兵が置いてあるわ!」

「メンテナンス中のようねぇ」


 どうやらここは巨人兵の格納庫らしい。

 恐らく宮殿の地下に作られているのだろうけれど、巨大な兵器を保管しているだけあって、天井も高くて相当な広さがあった。


「見ろ! あそこにいたぞ!」


 叫んだのはゴアテさんだ。

 そこには格納庫の向こうへ逃げていく二人の姿があった。


「ぜぇぜぇ……お、おい、ゼルス! 余を置いていくでない……っ!」


 先を走る大臣に、皇帝が息を切らしながら怒鳴っている。


「も、もう、余は走れぬぞ……」


 普段まったく運動していないのだろう、ついに皇帝は両膝に手をついて立ち止まってしまった。


「ぜぇぜぇ……どうせやつら、この場所には入ってこれぬはずだろう……あの隠された階段を見つけることなど……」


 そこでこちらを振り返った皇帝が、「ぎゃあ!?」と叫んでその場に尻もちをつく。


「ななな、なぜここまで来ておる!? おい、ゼルス! なに一人で逃げておるのだ! すぐに戻ってきて余を守らぬかっ!」


 必死に訴えているけれど、大臣が戻ってくる気配はない。

 それどころか、すでにその姿は奥にあった扉の向こうに消えてしまっていた。


「ひぃっ! こ、こっちに来るな! これは皇帝命令だぞ!?」


 喚き散らす幼帝に、各国の精鋭兵たちが近づいていく。


「まだロクに分別もついていない子供の皇帝か……。侵略戦争を始めたのは、周りの大人たちに唆されてのことだろう」

「だが子供とはいえ、この国の皇帝であることは事実。その責任から逃れることはできぬ」

「ああ。今後の処置については各国で協議するとして、ひとまず身柄は拘束させてもらおう。人質に取ることで、戦争を終わらせることもできるだろうからな」


 そうして捕まえようとしたときだった。


 ドオオオオオオオオオオオオオオンっ!!


 轟音と共に向かいの壁が弾け飛んだ。

 ちょうど先ほど大臣が消えていった扉のある壁だ。


「っ……何が起こった!?」

「あ、あれは何だ……? ドラゴン……?」

「いや……」


 そして飛来する無数の瓦礫の向こう側から現れたのは、機械仕掛けのドラゴンだった。

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