第365話 余を子供呼ばわりするなど

 要塞から橋を伝って宮殿に突入した八つの軍団は、あくまでも囮。

 敵軍がそちらの対処のため奔走している中、精鋭ばかりを集めた部隊を、瞬間移動を使って一気に宮殿の中枢へと送り込むというのが、今回の作戦だった。


 その部隊を構成するのは、村の狩猟隊を中心に集められた、お馴染みのメンバーたちだ。

 セレン、フィリアさん、セリウスくん、ゴリちゃんに、『盾聖技』のノエルくん、『巨人の腕力』のゴアテさん、『剣技』のバルラットさん、ペルンさんに、『槍技』のランドくん、『剛剣技』のバンバさん、『斧技』のドリアル、そして――


「ぜひあたしにも協力させてくれ!」

「儂も力を貸しますぞ!」


 エンバラ王国のマリベル女王とその護衛であるガンザスさんが、今回の話を聞いて志願してくれたのだ。

 どちらも強力なギフト持ちなので非常に頼もしいけれど、


「さすがに一国の女王様が参加するには危険すぎる気が……」

「心配は無用だ。我が国を救ってもらったお礼に、ずっと何かできないかと考えていた。だからぜひ力になりたい」

「儂も陛下と同じ気持ちですぞ!」


 そしてこのメンバーに加えて、各国の軍から選りすぐられた一流の兵士たち約十名が、この部隊に参加していた。

 もちろん全員が強力なギフトを持っている。


 実戦経験も豊富で、きっとこれまでに幾つもの修羅場を潜り抜けてきたのだろう、圧倒されてしまうほどのオーラがあった。

 いいなぁ、僕も彼らみたいなカッコいい人間になれたらなぁ……。


「しかしまさか、帝国の中枢に攻め込むことになろうとは……」

「ルーク殿が持つような規格外のギフトなど、我が国でも聞いたことがない」

「そもそも一つのギフトで、これだけ多彩なことができてしまうのが信じられぬ」

「普通の人間であれば、悪用しようと考えるだろう。だがルーク殿はその力を正義のために使っておられる」

「あの若さでなんて素晴らしい方だ。彼こそが理想のリーダーだろう。それに比べれば、俺なんてまだまだ……」


 あれ、そんな彼らから、なぜか尊敬の眼差しを向けられてるような……?


 この最強の部隊を引き連れ、僕はあらかじめヴィレッジビューによって見つけていた宮殿の中枢らしき場所へと瞬間移動する。


「っ! なんかすごく広い部屋ね!」

「たぶんここが皇帝に謁見したりするとこだと思うんだ。ほら、奥に玉座があるでしょ」


 広大な部屋の奥には、これでもかというくらい豪華絢爛な座具が置かれていた。


「っ!? なんだ、お前たち!? どこから入ってきた!?」


 そこへ怒声が響いてくる。

 声がした方を見ると、そこにいたのはやたら煌びやかな衣服を身に着けた十歳くらいの少年がいた。


「子供?」


 王族の子供だろうかなと思っていると、


「おい、いつまで突っ立っている! 皇帝である余の御前だぞ! 頭を低くしろ!」

「え、皇帝? あんな子供が?」

「っ……お、お前こそ子供だろう!? 余を子供呼ばわりするなど、言語道断! 死刑だ!」


 顔を真っ赤にし、癇癪を起こしたように叫ぶ自称皇帝。


 まぁ、王政の国の場合、君主が幼いケースなんて珍しくないか。

 巨人兵の操縦士たちが一度も皇帝に会ったことがないと言っていたけれど、この事実は隠されているのかもしれない。


「……陛下、危険ですぞ。やつらは恐らく侵入者……我が国の者たちではありませぬ」


 そんな皇帝に注意を促したのは、背後にいた男だ。


 年齢は三十代半ばぐらいだろうか。

 小柄で小太り、薄くなった頭髪、そして左右に跳ねた口ひげが特徴的である。


「えっ!? へ、兵隊どもは何をしているんだ! こんなところまで敵の侵入を許すなんて!」


 激高する幼帝。

 兵士が足りていないのか、あるいはここまで侵入されるとは想定していなかったのか、彼の近くにいるのは先ほどの男と二人の屈強そうな兵士だけだ。


 さすがにその二人の兵士は相当な実力者のようだけれど、こちらとの戦力差を理解しているのか、武器を構えながら慌てて叫ぶ。


「陛下! 大臣! お逃げください!」

「やつら相当な手練れです! 我らが時間を稼いでいる間に! 早く!」


 その切迫感が伝わったのか、幼帝は「ひぃっ」と情けない悲鳴を上げて、


「た、頼んだぞ! 絶対やつらをそこで食い止めるんだ! いいな!」


 慌てて部屋の脇にある出入り口から逃げていった。

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