第166話 そっちに大きくなるの

「ルーク様。そろそろ城を建ててみてはいかがでしょうか」


 ある日そんな提案をしてきたのは、北郡の元代官であるダントさんだった。


「え? 城?」

「はい。現在ルーク様が住まわれている屋敷も立派なものですが、周辺に大きな建物が幾つも作られた今、相対的に見ると少々心許ないものとなっています」

「うーん、そうは言っても、広さ的にはこれで十分だけどね」


 確かにダントさんが言う通り、巨大なマンションやビルなんかが増えてきた中、僕の屋敷が随分とこじんまりして見えるようになってしまった。

 ただ、たまに客人を泊めることはあっても、普段は僕とミリア、セレンの三人だけなので、これでもむしろ広すぎて寂しいくらいだ。


 ……最近は影武者もいるけど。


「しかし今後、さらに村が発展していけば、より大人数で政務を分担していく必要が出てくるでしょう。そうなるとこの屋敷で、というわけにはいかなくなると思います」


 どうやら城の建設を勧めてくるのは、単に居住面を考えてのことだけではないようだ。


「でも、これ以上発展するかなぁ?」


 正直もうこれで十分過ぎるくらいだし、さすがにそんなに大きくならないと思うよ。


 ちなみに現状、村の政治に関しては次のようにざっくり担当者を決めてある。


 他の都市や領地などとの外交に関すること……ダントさん。

 村人たちの生活に関すること……ベルリットさん。

 村の産業や商業に関すること……ブルックリさん。

 村の治安維持や周辺警備に関すること……サテン。


 ブルックリさんは元々、北郡でも有数の商会に務める商人だった人だ。

 創業者一族で副会長だったのだけれど、現在は退任し、この村のために働いてくれている。


 軽微なものについては各々の判断に任せている。

 ぶっちゃけ僕なんて、どの分野もほとんど門外漢だし。


 最近は学習のためにそれぞれに影武者を付けたりもしていた。


「それに今回のドルツ子爵やフレンコ子爵のように、今後は要人を迎えることも増えていくでしょう。そのときにやはり城でなければ失礼になるかと」

「増えてほしくはないけどね……」


 そもそも僕は領主でも代官でもない、ただの村長。

 そしてここはあくまで村だ。


「……貴族の来訪を想定すること自体がおかしい気がする」

「そのドルツ子爵やフレンコ子爵も、ルーク様に相応しい城を早急に建てるべきだと主張してきているんですよ。ついでにリーゼンのミシェル代官も」


 今回の意見はダントさんだけのものではないらしい。


「うーん、そこまで言うなら……」


 説得されて、僕は城を作ることにした。

 というか、ギフトのリストに「宮殿」があったっけ。


「なら宮殿で構わないよね。……城と宮殿って何が違うんだろう?」


 ともかく、作ってみることにした。

 必要なポイントは500なので、それほど多くはない。


 しかも現在の家屋・大からグレードアップするなら、差分の300ポイントでいいみたいだ。


「ええと、まずは十分なスペースを確保して、と」


 周囲の建物を動かしたりして、宮殿のためのスペースを設ける。

 家屋・大の三倍もあれば十分だろう。


「ルーク様の初めてのお城です。せっかくですし、もっと広い方がよいのではありませんか?」

「そうね。これじゃ、私の実家よりも小さいわ」

「いやいや、これくらいで十分だよ。むしろ伯爵家のお城より大きかったらおかしいじゃん」


 ミリアとセレンの提案を僕は突っ撥ねる。


 さすがにそこらの領主より立派な城を作るわけにはいかないだろう。

 何度も言うけど、ここはただの村なのだ。


〈村ポイントを300消費し、家屋・大を宮殿にグレードアップしますか? ▼はい いいえ〉


「はい」を選択すると、これまで住んでいた家屋・大が動き出し、巨大化していった。

 もちろん確保したスペースのところで巨大化は止まる――はずが、そのまま上へ上へと建物が伸びていく。


「え? そっちに大きくなるの?」


 やがて現れたのは、高層ビルのように聳え立つ宮殿だった。

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