第165話 まるで獣みたいだったね

 空前の出産ブームは今も続いている。

 村の人口増加ペースを考えたら、むしろこれからが本番だろう。


 それに対応するために、1000ポイントを消費して病院を作った。


〈病院:入院設備のある診療施設。患者の苦痛軽減。自然治癒力アップ。医療行為の効果アップ〉


 普通の病気や怪我なんかはポーションでもすぐに治るので、病院の大半が産婦人科だ。

 しかも出産に伴う様々な症状や苦痛を大幅に和らげてくれるとあって、妊婦さんたちから大いに喜ばれている。


 そのうち保育所もたくさん必要になりそうだね。


「そそそ、村長! たたた、大変っす! 大変っすよ!」


 そんなある日、大慌てで僕のところへ飛んできたのは、元盗賊の下っ端、バールだった。


 ずっと牢屋に入っていた彼も、今は村のいち衛兵として働いている。


 人に危害を加える可能性がないと判断したためだけれど、おばあちゃんをも当惑させたあの変態性がなくなったわけじゃない。


『俺はもう悪いことなんてしないっすよ! されるよりされたいっすから! ぐひっ!』


 とか言ってるし。

 一応、更生施設にも入れたんだけどなぁ……どうやら性癖は治らないようだ。


 そんな彼が何の用だろうか。


「どうしたの?」

「ば、ババアが! ネマのババアが……っ!」

「お、おばあちゃんがっ……?」


 ネマというのは、推奨労働が拷問官のおばあちゃんだ。

 今ではもっと高齢の村人が増えたけれど、以前は村の最年長だった。


 バールのこの慌てぶりだ。

 もしかして、おばあちゃんの身に何かあったのだろうか。


 年齢を感じさせないくらい元気なおばあちゃんだけれど、それでもこの世界ではもうそれなりの高齢だ。

 不安な気持ちが押し寄せていると、バールは言った。





「ババアが妊娠したっす!!!!」





「……は?」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。


 だっておばあちゃんはすでに六十を超えている。

 前世の科学技術でも妊娠することは難しいだろう。


 いや、でも、この世界の人たちなら不可能ではないのか……?

 栄養不足なんかで寿命は前世より短い傾向があるけれど、この村だと食べ物も医療も充実しているし。


 だけどそれ以上に僕を驚かせたのは、


「……ねぇ、バール……やっぱり、君を外に出すべきじゃなかったみたいだね……」

「へ?」

「幾らなんでも、それは擁護できないよ……まさか、おばあちゃんに手を出すなんて……」

「いやいや、俺じゃないっすよ!? 何で俺がババアを妊娠させたことになってるっすか! ババアが妊娠したのは普通にジジイとヤったからっすよ!」

「あ、そっか」


 あのおばあちゃん、旦那さんがいるんだった。


「え? でも、旦那さんはもう七十近かったような……」

「驚きっすよね! 一体どうやって勃ったんすかね! 二つの意味で!」

「直截的な表現はやめてよ!」


 そんなわけでバールに連れられ、おばあちゃんのところへ。

 マンションの一室に、旦那さんと二人で暮らしている。


「おばあちゃん、妊娠したって聞いたけど……」

「そうなんだよ!」

「あ、おじいちゃん」


 とても嬉しそうに旦那さんが出迎えてくれた。

 遅れておばあちゃんが姿を見せる。


「何だい、村長。忙しいんだから、わざわざ来てくれなくてもいいのに」

「本当に妊娠したの?」

「そうみたいだねぇ。少し身体の調子が変だなとは思ってたけど、まさかこの歳で妊娠とは思わなくて、お腹が膨らんでくるまで分からなかったよ」


 よく見ると確かに少しお腹が膨らんでいるようだ。


 ちなみに二人にはすでに三人の子供がいるらしい。

 三人とも実家を離れてどこかを旅しているそうで、この村にはいなかった。


「なぁ、ジジイ、どうやって妊娠させたっすか?」

「ちょっ、バール……」


 こいつって本当に無神経なやつだよね。


「村の地下にあるホテルの噂を聞いての。ばあさんを必死に説得して、そこで久しぶりに……。そうそう、エルフが作ったフルボッキポーションもびっくりするぐらい効いたのう。まさかこの歳になって、五回戦までいけるとは思わんかったわい」

「まったく、あのときのあんた、まるで獣みたいだったね」


 ……その後、おばあちゃん妊娠の話を聞いた村の高齢夫婦たちの間で、妊活が盛んになったとかならないとか。

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