第309話 なんか剣が動き出した

 燃やされた肉片の分まで、隣り合った肉片が再生してしまった。


「ということは、少しでも再生できる部位が残っている限り、ビヒモスは復活できるってことか……」

「左様ですぞ。一方、この性質を利用すると、ビヒモスの素材を無限に生産し続けることが可能なのですじゃ」

「なるほど」


 もちろん肉や臓器だけでなく、骨や皮も同様の性質を持つらしい。


「そしてこの臓器素材なのですが、なんとあのエリクサーの精製にも利用できることが分かったのですぞ!」

「えっ?」


 エリクサーは伝説の霊薬だ。

 身体の欠損どころか、生まれつきの障害や病気すら治療してしまうという代物で、前に一度エルフたちが偶然ながら完成させたのだけれど、これを狙って戦争が起きかねないからと作成を禁止したのである。


「確か、製法は分かるけど、大量の素材がいるから、量産はできないって言ってたけど……」

「それが、このビヒモスの素材を使えば、もっと簡単にできて、しかも量産すらできてしまうのですじゃ!」

「量産できる……」


 数が少ないからこそ争奪戦になるわけで、大量生産が可能になるなら、逆に戦争は起こらないかも……?


「って、余計な火種は起こさない方がいいよね」

「なぁに、ルーク殿! 仮にどこかの国が攻めてきたところで、今のこの村ならば軽く返り討ちにできますぞ!」

「もしかして量産したがってない?」


 ジト目を向けると、レオニヌスさんはゆっくりと視線を逸らした。


「ダメだよ? まぁ別に作るのは構わないけど、数は制限して、もちろん秘密裏にね」

「了解ですじゃ(エリクサー、量産して大々的に売り出したい……量産して大々的に売り出したい……量産して大々的に売り出したい……ハァハァ)」

「なんか息荒いけど本当かな!? ちゃんと自重してよね!?」






 何度でも再生できるのは、ビヒモスの他の素材でも同じだ。


「ルーク村長、あのビヒモスの素材で、凄い武器が作れるようになったべ!」


 ドワーフたちのリーダーであるドランさんが、興奮で鼻息を荒くしながら教えてくれる。


「なんと、壊れても時間が経てば自己修復されるだ!」


 鍛冶を得意とする彼らドワーフには、骨や皮などの素材を渡していた。

 それを材料にして作られた武具に、どうやら自己修復の性質が付与されてしまったらしい。


 彼らの工房へと連れてこられた僕は、『兵器職人』のギフトを持つドワーフの少女、ドナからその武器を紹介される。


「ん、この剣」


 台の上に置かれた剣に、ドナが巨大なハンマーを叩き下ろす。

 すると剣が真っ二つに折れてしまった。


「普通ならもう修復も難しい状態だべ。だけど、これをずっと置いておくと……」


 といっても、すぐに元通りになるわけではないようで、しばらく待ってみても、まったく変化がない。


「ん、丸一日はかかる」

「時間はかかるけど、すごいからぜひ見ていてほしいべ!」


 もしかして丸一日、ここで観察してろってこと?

 うーん、さすがにそんなに暇じゃないし、影武者に任せようかな……。


 とそこで、ふとあることを思いついた。


「……えーと、ポーションでもかけてみる?」


 いや、さすがにポーションで修復が早まるなんてことはないだろう。


「でも、物は試しって言うしね」


 折れた剣に、ポーションを振りかける。

 すると信じられないことが起こった。


「なんか剣が動き出した!?」

「しゅ、修復が早まってるべ!?」

「びっくり」


 何の力も加えていないのに、折れた上半分と下半分が勝手に近づいていき、そうしてぴったりと合わさる。

 そのまま観察を続けていると、切れ目が段々と塞がっていき、やがて元の刀身が復活していた。


「え? どういうこと? ポーションは生き物にしか効かないはず……つまり、この剣、生きてるってこと……?」


 どうやらとんでもない剣が誕生してしまったみたいだ。

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