第310話 植物とかに近い感じ

 ビヒモスの素材を使って作った剣に、ポーションが効いてしまった。


「この剣、生きてるってこと……?」

「ん、そうなる。たぶん、植物とかに近い感じ」

「なるほど、植物か……」


 植物にもポーションが効く。

 傷をつけた幹などにかけると、修復されるのだ。


 そこで僕は、ふとある疑問を抱く。


「ていうか、どこまで生き物として判定されるのかな……? 苔とか、細菌とか、ウイルスとか……微生物って生物だっけ?」

「さいきん? ういるす?」


 僕の呟きに、ドナが首を傾げている。

 まぁ、細菌やウイルスなんて言われても分からないよね。


「この素材、魔剣にも使える」

「た、確かに使えそうだべ! きっと魔剣の最大の欠点を解消できるだ!」

「魔剣の欠点?」


 魔剣というのは、振るうだけで魔法を放つことができる特殊な剣である。

 伝説の武器とされていたけれど、以前、ドナがまったくのゼロから作り出してしまったのだ。


「ん。魔剣は、何度も使い続けていると、壊れてしまう」

「へえ、そうなんだ」


 どうやら強力な反面、大きな弱点があったらしい。


「でも、自己修復できる性質が付与されたら、いったん壊れてもまた使えるってこと……?」

「ん。というわけで、作ってみた」


 相変わらずの無表情ながら「じゃーん」と言って、どこに隠し持っていたのか、新しい剣を掲げるドナ。


「もう作ってたべ!? いつの間に!?」

「村長に見せたかった」


 すでにビヒモスの素材を利用した魔剣を作っていたようだ。

 見た目は普通の剣とあまり変わらない。


「実験する。まずは、壊れるまで使う」


 的に向かってドナが魔剣を振るうと、直径二メートルを超える巨大な炎塊が猛スピードで飛んでいく。

 直撃と共に激しく爆発し、周囲に火の雨が降り注いだ。


 吹きつける熱風に、僕は思わず腕で顔を覆う。


「って、なんか前に見せてもらったときより威力がめちゃくちゃ上がってない!?」

「ん、改良したから。ただ、余計に壊れやすい」


 それからさらに三、四回、魔剣を使用したら、刀身に罅が入った。

 ……それにしても、さっきから何度も炎が直撃してるあの的、まったくの無傷なんだけど、一体どんな材質でできてるんだろう……?


「たぶん、あと二回くらいで壊れる」


 そして五回目で、大きな亀裂が入ったかと思うと、六回目で粉々に砕け散ってしまう。


「壊れた。この威力だと、五、六回が限界」

「このまま置いて待つのもいいけど、ポーションを使ってみよっか」


 できるだけ破片をくっ付けてから、ポーションを降り注いでみる。

 すると少しずつ破片と破片が繋がり始め、段々と元の綺麗な刀身へと戻っていく。


 ものの五分もすれば、いったん砕けてしまったとは思えないくらい、元通りになってしまった。


「ん、戻った。後は、ちゃんと使えるかどうか」


 魔剣を持ち上げ、再び振るうドナ。

 すると先ほどまでと変わらない巨大な炎塊が、的に向かって飛んでいった。


「使えた! 完璧。これで何度でもいける」


 興奮しているようで、ドナは珍しく高いテンションで拳を握りしめる。

 ……この村に、また恐ろしい武器ができてしまった瞬間である。


「それにしても、すごく熱いね……」


 工房内の一角で実験していて、何度も炎を炸裂させたせいで気温が猛烈に上がっていた。

 ドランさんやドナは普段から鍛冶作業で慣れているのか、涼しげな顔をしているけど。


「じゃあ、冷やす?」


 そう言って、ドナが別の魔剣を振るう。

 すると凄まじい吹雪が発生し、一帯が一瞬にして凍り付いてしまった。


「冷えた?」

「……炎も吹雪も、こんなに手軽に……やっぱり表には出しちゃいけない武器だね……。別に作るのは構わないけど、できるだけ数は制限してね? もちろん売ったりするのもダメだよ」

「ん、了解(魔剣、いっぱい作りたい……いっぱい作りたい……いっぱい作りたい……ハァハァ)」

「なんか息が荒いけど、本当に大丈夫……? ちゃんと自重してよね?」

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