第326話 えらいこっちゃ

「これで鉄道が完成しました。山脈の向こう側にある僕たちの村まで、一時間ちょっとで行けるはずです」


 影武者から連絡があって、鉄道が村まで繋がったらしい。

 それを監督役のマサミネさんに報告していた。


「本当にこんなことで西側に行けるとは思えぬのじゃが……」

「まぁ実際に行ってみれば分かりますよ」


 半信半疑のマサミネさんに電車に乗ってもらい、荒野の村へと出発した。

 そうして電車に揺られること、およそ一時間。


「着きました」


 電車が村の地下に作られたホームに停車する。


「さあ、どうぞ。このすぐ上が僕たちの村になっています」


 ホームから階段を上って駅を出ると、マサミネさんはひっくり返りそうになりながら叫んだ。


「なんじゃこりゃああああああああっ!?」

「ここが僕が村長をしている村です」

「村!? これのどこが村じゃ!? 大都市ではないか!? 空が狭く見えるほど、高い建物ばかりじゃっ!」

「向こうに魔境の山脈が見えます。ええと、太陽の位置から考えて、東側ですよね」

「ほ、本当にこんな短時間で、あの山脈の地下を抜けてきたというのか……?」


 わなわなと身体を震わせるマサミネさん。

 とそこで何を思ったか、突然、腰から刀を抜いた。


「わしは狐に化かされておるのかもしれぬ! 痛みを与えれば、妖術も解けるはず……っ!」

「ちょっ、腹を切ろうとしないでください! 妖術なんかじゃないですから!」







 僕たちは再び公園に乗り、空を飛んでいた。


「見えてきたようだ。あれが商売の国、オオサクである」

「すごい、あちこちに川や水路が巡ってる」

「うむ。それゆえオオサクは水の都とも呼ばれておるのだ」


 エドウの街を一通り観光した僕たちは、続いて隣のオオサクへとやってきていた。

 海のすぐ近くにあるオオサクの中心地は、川と水路が張り巡らされ、そこをたくさんの船が行き来している。


「オオサクを治めているのはトヨトキ家。その当主、すなわち国のトップは太閤殿と呼ばれておる。太閤殿は貧しい家の出ながら戦国の世に大いに台頭し、こうして一国を治めるまでに至った人物で、それに倣って己も一旗揚げようと、ここオオサクの商人たちは総じて血気盛んで逞しい」


 その太閤殿のいる城が見えてきた。

 エドウ城に負けない天守閣を有するオオサク城だ。


「でも、いきなりあの城の中に降りちゃって、本当に大丈夫なんですか?」

「心配は要らぬ。太閤殿は無類の新しいもの好き。むしろ興味津々で歓迎してくれるであろう」


 ガイさんは、広い城の敷地内に公園を着陸させてしまって構わないだろうという。

 攻撃されたりしないよねと不安に思いつつも、言われた通りに高度を降ろしていく。


 山脈の地下を通じてエドウが西側と貿易を始めたことは、商魂たくましいオオサクなら、放っておいてもすぐに嗅ぎつけ、近いうちに向こうから接触してくるに違いない。

 どのみちそうなるとしたら、こちらから押しかけてしまった方が早いというのが、ガイさんのアドバイスだった。


「なんや、けったいなもんが空から降ってきおったで!」

「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ! 天空人の襲撃ちゃうか!?」

「上に誰か乗っとるで!」


 城内に公園を着陸させると、すぐに大騒ぎになった。


 だ、大丈夫かな……?

 またあやかしと間違えられたりしないよね……?


「よー分からんけど、とりあえず喋れそうなら大丈夫やろ。魔物やったら困るけどな」

「あれ、わいも乗っけてくれへんかな? あの空飛ぶ地面があったら、めっちゃ移動が楽やん」

「移動どころか、あれで商売できるんちゃう?」


 うん……なんか、大丈夫そうかも?


 そこでここぞとばかりに、ガイさんが彼らに名乗り出る。


「拙僧はキョウの国、宝蔵寺の僧、ガイである。この方々は西方からの旅人なり」

「なんや、坊主がおるで」

「キョウの坊主か。あいつらほんまつまらん奴らやで。世俗を捨てて、布施だけで生きるとか、アホの所業やろ」

「まぁ中には金儲けに余念のない坊主もおるらしいけどな」


 ……どうやらキョウの国の僧侶は嫌われているらしい。


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