第246話 泥棒じゃないの
「うーん、やっぱりなかなか大きくならないなぁ……」
そのメモリの数値を見ながら、僕は溜息を吐いた。
身長計だ。
村の工房で製造しているもので、僕の家にも一台置いてある。
これで一年ほど前からずっと身長を計っているんだけれど、一センチくらいしか伸びていないのだ。
しかも最近、その僅かな伸びすら止まってきている気がする……。
「いや、気のせいだよね……うん。きっとまだこれから大きくなるはずだ」
「ふふふ、心配は要りませんよ、ルーク様」
「ミリア?」
「ルーク様は今のままが一番ですから(どうやら魔法が効いているようですね。これでずっとこのショタ姿のまま……ぐふふふ……)」
ミリアはそう言ってくれるけれど、僕はもっと大きくなりたかった。
姿を変えられるスキルとか覚えないかなぁ……。
それはともかく、いよいよ村は本格的な冬へと突入しつつあった。
ただ、地上に伸びる道路しかなかった去年と違い、今年は地下を通る鉄道があるため、冬になっても人の行き来が途絶えることはないだろう。
荒野の長い冬が開けて春になれば、僕も十四歳になる。
この荒野で村作りを始めて、もう二年だ。
色々あった二年間だった。
特に今年は大変だったなぁ。
晩春の頃にはラウル率いる五千の軍が攻めてきて。
どうにかそれを退けることができたものの、秋には父上と激突することになってしまった。
どちらも何とかなってよかったよ。
アルベイルの解体が大きな契機となって、各地で頻繁に起こっていた戦も、今はかなり下火になってきていた。
ラウルも協力し、以前より大幅に強化されつつある王国軍が介入すると宣言していることもあって、血気盛んだった領主たちもさすがに大人しくなったらしい。
「この国もようやく平和になりそうだね」
そうして本格的な冬がやってくる。
去年は初めてで大変だったけれど、今年は色々と余裕も出てきた。
そこで僕はこの冬の間に、ちょっとしたイベントを幾つか開催することにした。
一つ目はクリスマスだ。
「クリスマス、ですか?」
「何よそれ?」
この世界にそんな文化はないため、誰もが首を傾げた。
「白い髭を生やしたおじいちゃんが、トナカイの曳くソリに乗って、夜のうちに家々を回って子供たちにプレゼントを渡していくっていうイベントだよ」
まぁ本来のクリスマスはもっと厳粛なものなんだろうけど。
「え? 煙突から部屋の中に侵入するのですか?」
「ほとんど泥棒じゃないの?」
「……うん、まぁ、その辺は気にしないで」
さらにクリスマスと言えば、クリスマスツリーだ。
大きな木を一本村の広場に植えて、それをみんなで飾りつけした。
そうしてクリスマス前夜の夜中。
……ちなみに日にちは僕が適当に決めた。
「みんな、準備は良いね?」
「「「おおー」」」
返事をしたのは、赤い服を着て、白い付け髭をした影武者たちだ。
これから影武者たちが総出で、こっそり各家庭に瞬間移動でお邪魔しては、子供たちの枕元にプレゼントを置いていく予定だった。
なお、プレゼントの中身は、お菓子とか玩具とか、子供たちが喜びそうなものばかり。
ランダムで配られるので、望まないものが来ることもあるだろうけど許してね。
そうして翌朝、村中で子供たちの笑顔が弾けた。
ただ、それは子供だけじゃなかった。
「え? 私のところにもプレゼントがあるわ!」
「わたくしもです!」
実は大人たちにも、ちょっとしたプレゼントを配ったのだ。
もちろんサプライズである。
子供だけが貰えるとばかり思っていたため、みんなすごく喜んでくれた。
クリスマスとはまた打って変わって、大規模な雪合戦イベントも開催した。
これは村人たちを東西二チームに分けて、とにかく雪を投げ合うというものだ。
相手チームが投げた雪が身体のどこかに直撃したら離脱するという形式で、どちらかのチームの最後の一人がやられるまで行った。
フィールドは建物の中を除く村全体だ。
……うん、めちゃくちゃ盛り上がったけど、めちゃくちゃ時間がかかった。
特に最後に残った東チームのセリウスくんと、西チームのディルさんの一騎打ちは、全然決着がつかなかった。
どんな球も躱してしまうセリウスくんに、高い索敵能力と隠密行動に長けている冒険者のディルさん。
どちらもチームの勝利を背負い、絶対に負けられないため全力だった。
結局、一週間ぐらいかかったかな?
その間もう村人たちはとっくに普段の生活に戻っていて、二人はその中で最後まで戦い続けた。
勝ったのは西チームのディルさんだ。
セリウスくんがついに疲れて転寝してしまった隙を突いて、雪玉を直撃させたのである。
「ら、来年こそはリベンジを……っ!」
「またやる気なの、セリウスくん……」
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