第311話 まだまだ序の口っす

「それにしても、また増えたなぁ」


 村の一角に設けられた、畜産用の広大な農地。

 家畜小屋と放牧場からなるそこには、大勢の家畜が暮らしていた。


〈家畜小屋:家畜専用の小屋。家畜たちの成長促進、健康維持、繁殖力強化、強力消臭〉

〈公園:村人たちの憩いや遊びのための区域。村人たちの健康維持、愛村心アップ〉


 ちなみに放牧場は、公園を転用させている。


「というか……家畜じゃない動物もいっぱい交じってるけどね」

「あ、ルーク村長、お疲れ様っす!」

「お疲れ様、ネルル」


 ネルルは『動物の心』というギフトを持つ女性で、ここの管理を任せていた。

 もちろん彼女だけだと労働力がまったく足りないので、サポートのための飼育員もたくさんいる。


「随分と色んな動物が増えちゃってるよね?」

「そうなんっす! たぶんもう、五十種は超えてるっす!」


 当初は牛や鶏、羊、馬といった、一般的な家畜しかいなかったここに、今ではたくさんの種類の動物が暮らしていた。

 例えば犬や猫、猿、ウサギ、キツネ、タヌキ、クマ、シカ、などなど。


 家畜には向かない動物も多く、もはやペットとして飼われているような状態だ。

 何でこんなことになったのかというと、ここで生まれた動物たちが軒並み巨大になるのを面白がって、商人たちが勝手に動物を連れてきて、ネルルに預けてしまったせいだった。


 無論、ここで育った動物たちは、どれもこれも通常よりも遥かに巨大だ。


「だって猫がトラで、猿はゴリラみたいだし……」


 クマなんてもはや全長十メートルに迫る勢いで、完全に魔物である。

 村に連れてこられたときはまだ小さな子熊だったのが、ここまで成長してしまったのだ。


「他の動物を襲ったりしないの?」

「しないっすよ! とっても良い子っすから!」


 そう言って、ネルルはクマのお腹に抱き着く。


「そうそう、おいらがしっかり躾けてるからな!」


 とそこへ、自信満々に現れたのは、小柄な青年だ。


 いかにも素朴な印象を受ける坊主頭の彼の名は、ハッセン。

 カイオン公爵領出身で、この村の噂を聞きつけて移住してきた一人だ。


「動物たちはみんな、ハッサンの言うことを聞いてくれるっす!」

「祝福で授かったギフトのお陰だぜ!」


 彼はこの村に来て、『調教』というギフトを手に入れた。

 元々動物が好きだったという彼は、その力を活かして、ここで働いているというわけだ。


 ちなみに、『調教』というだけで、対象が動物に特定されているわけじゃない。

 なので、もしかしたら人間も調教できるのかもしれないけれど……試したことはなかった。


「(念のため言わないでおこう。本人は動物専用と思ってるみたいだし……)」

「ハッセン、村長にあれを見せてあげるっす!」

「おおっ! そうだな!」


 思案する僕を余所に、ネルルとハッセンが何やら掛け合っている。

 何をするんだろうと思っていると、ハッセンが口笛を吹いた。


 すると放牧場のあちこちに散らばっていた動物たちが、一斉に集まってくる。

 そうして綺麗に整列してしまった。


「え、軍隊みたいに真っ直ぐ並んでる……」

「まずは犬たちからだ!」


 さらにハッセンが合図をする度に、巨大な犬たちが座ったり立ち上がったり伏せたりする。


「すごい……」

「これくらい、まだまだ序の口っす!」

「他の動物たちも行くぜ!」


 芸を仕込むにしても、犬ならまだ分かる。

 けれど、ハッセンの合図を受けて、牛や鶏、猫やウサギまでもが、芸を披露し始めた。


 二匹の猿が回すロープで縄跳びをしたり、ヘディングでボールを落とさずに回したり。

 しまいには鳴き声でメロディーを奏でてしまった。


 さすがギフトの力……。

 これ、ショーにして余裕でお金を取れるレベルだよ。


 いっそのこと、動物園を作っちゃおうか。

 そして定期的に動物たちのショーを開催すれば、村の新たな名所になりそうだ。


「水辺の生き物たちにも仕込んでるっす!」

「村長、ぜひそっちも見ていってくれよ!」


 ……もしかしたら水族館も作れるかもしれない。



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