第312話 どこから連れてきたんだろ

 放牧場内にある水辺。

 水堀をカスタマイズして作ったそこには、いつの間にかたくさんの生き物が棲息していた。


〈水堀:敵の侵入を防ぐための溝。水が張られているタイプ。形状の選択が可能〉


「イルカに亀、それにペンギンまでいる……どこから連れてきたんだろ?」


 もちろんどれも通常の大きさじゃない。

 イルカというかもう完全にクジラだし、亀は甲羅だけで全長三メートルくらいあった。


 ペンギンは僕とそんなに変わらないサイズ。

 さらに水堀の中を悠々と泳いでいる魚たちは、どれもこれも軽く全長一メートルを超えている。


「イルカにも芸を仕込んだんだぜ! 犬と同じくらい賢いからびっくりすると思うな!」


 ハッセンが合図すると、巨大イルカが猛スピードで水上へと跳ね上がった。


「うわああああああっ!?」


 いきなりの大ジャンプに圧倒され、僕は思わず叫んでしまう。

 イルカはゆうに三メートルほど宙を舞った後、思い切り水に飛び込んだ。


 ざばああああああんっ!


 猛烈な水飛沫が上がり、横殴りの雨のように降り注ぐ。


「……びしゃびしゃになっちゃった」

「はははっ! どう!? 凄いだろう!?」

「いつ見ても大迫力っす!」


 自分たちも濡れ鼠になっているのに、ハッセンとネルルは大興奮だ。

 まぁ、冬だったら風邪ひいちゃうだろうけど、最近かなり暑くなってきていて、むしろ気持ちいいくらいである。


 その後、この畜産用農地に併設する形で、動物園を設立。

 色んな動物たちによるショーも定期的に開催され、村人たちの間で大人気に。


 やがてこの動物園を目当てにした観光客まで訪れるようになり、新しい村の名所になったのだった。







 村の畑の一角に存在するちょっとした林。

 ごく普通の林のようにも見えるけれど、よくよく観察していると、自然にはあり得ない現象が起こっていることがすぐに分かる。


 なにせ木々が自由自在に動いているのだ。


「つーちゃんの子供たちも大きくなったっす!」


 ネルルが言う「つーちゃん」というのは、かつて魔境の森からこの村にやってきたツリードラゴンのことだ。

 ドラゴンの形状をしているけれど、トレントという樹木の魔物の一種で、どういうわけか、すっかりここの畑に居ついてしまったのである。


 そのツリードラゴンが畑に実を落とし、そこから生まれてきた子供たちが、さすがにまだ親木ほどではないけれど、いつの間にか立派な木々に成長していた。

 結果、畑が林のようになってしまったのだ。


 すべてツリードラゴンなので、この林ごと移動することができる。

 翌日、いきなり別の場所に移っていたりすることもあって、村に来たばかりの人をよく驚かせていた。


 そんなツリードラゴンの林だけれど、最近は子供たちの遊び場になっている。


「「「わ~~~~いっ!」」」

「「「やっほ~~~っ!」」」


 ツリードラゴンの枝に座っての回転ブランコや、幹を利用した滑り台。

 枝葉を集めたハンモックに寝たり、根っこで作られた秘密基地に隠れたり、アスレチックのように枝から枝へと飛び移って遊んでいる子供もいる。


 幹や枝を自在に動かせるため、いつ来ても少しずつ様相を変えてしまうこの林は、子供たちにとって格好の遊び場なのだろう。


「一応、魔物なんだけどね?」

「大丈夫っすよ! つーちゃんたちも子供が好きみたいっすから! むしろ怪我したりしないよう見ててくれてるっす!」


 とそのとき、高いところから一人の子供がいきなり飛び降りた。

 危ない!? と思った次の瞬間、ツリードラゴンが枝を伸ばす。


 その枝をキャッチした子供は、そこからぐるりと大車輪を決めると、その勢いのまま手を放す。

 再び空を舞った子供は、空中でぐるぐる回転してから、葉っぱが集まってできたクッションの上に着地した。


「僕もやりたい!」

「わたしもわたしも!」

「おれもおれも! 村長、見ててよ!」


 他の子供たちが一斉に声を上げる。

 最初の子供だけかと思っていたら、どの子供も負けず劣らずの空中演技(?)を披露してくれたのだった。


 ……中にはまだ五歳くらいの子供もいたのに、空中で二回転もしていた。


「いや、子供たちの身体能力、おかしくない……?」


 どうやらこの林で自由奔放に遊んでいると、子供離れした身体能力を身に着けてしまうらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る