第319話 我が選択に悔いは無し

ガイ

 年齢:28歳

 愛村心:中

 推奨労働:僧兵

 ギフト:白魔法


「こんにちは、ガイさん。……ガイさんって、東の国の出身なんですよね?」

「うむ。相違ない」


 アレクさんたち冒険者パーティの一員、ガイさん。

 屈強な体躯で、棍棒での接近戦もこなせる僧侶である彼もまた、山脈の東から来たらしかった。


 頭を綺麗に丸め、法衣と呼ばれる東方ならではの衣服を身に着けた彼は、どうやらアカネさんと違い、信仰の国・キョウの出身らしい。


「もしかしてガイさんも山脈を越えてこられたんですか?」

「いや、拙僧がこの西の地にやってきたのは、陸路ではない。仲間の僧たちと共に、海路で来たのだ」

「あ、そうなんですね」


 ガイさんが言うには、東の国から陸路で西に来るためには、あの魔境の山脈を越えるか、それを迂回して広大なルブル砂漠を縦断するか、もしくは海を通るか、主にこの三つのルートがあるらしい。


 当然どれも非常に過酷な旅路だが、天候にさえ恵まれれば、海路が最も速くて安全なのだという。


「でも、何のためにわざわざ危険を犯してまで西側に?」

「仏の尊い教えを、是非とも西側の国々にも伝えたいと思い立ったからである」


 どうやら伝道のためらしい。

 でも一度もそれらしいことをしているのを見たことないけど……。


「村長。こいつの話は真面目に聞くだけ損だぞ」

「え?」


 そこへ割り込んできたのはパーティのリーダー、アレクさんだ。


「もっともらしいことを言っているが、どうせ、こっちの方が胸と尻が大きい女が多いと知ったからとか、そんな理由だろう。敬虔な僧侶ですって顔ながら、こいつの中身はただの性職者だからな」

「あ、そうなんですね……」


 詳しく問い詰めてみると、過去に西側を旅した人物が遺した文献に、西側の女性たちは総じて肉感的だというような内容が書かれていたそうだ。


「そんなことのために危険を犯して、故郷を捨てるとか……」

「女子の胸と尻こそ、この世の真理なり。我が選択に悔いは無し」

「さいですか」


 どうしようもないエロ坊主だった。


「だけど、久しぶりに故郷に帰ってみませんか? 空を飛んでいくからすぐですよ。……と言いつつ、本当は単に旅行先を案内してくれる人がいたら助かるなって」

「故郷、か……」


 東の山脈の方を見遣り、思案するガイさん。


「うむ。せっかくの機会である。久方ぶりに故郷に帰るとしよう。案内も拙僧に任せるがよい」

「ほんとですか? すごく助かります」

「村長、面白そうだから、ガイだけじゃなく、俺たちも連れていってくれ。どのみち、ガイがいないとダンジョン攻略はしばらくお休みだからな」


 と、アレクさん。


「もちろんいいですよ。それじゃあ、三日後くらいに出発しましょう」







 そうして例のごとく空飛ぶ公園に乗って、僕たちは村を出発した。

 今回の旅の同行メンバーは。


 セレン、ミリア、フィリアさん、セリウスくん、ゴリちゃん。

それからアレクさん、ガイさん、同じくパーティメンバーのハゼナさん、ディルさん。


 これに僕を含めて、十人での旅となる。


 今回はできるだけ人数を絞ったつもりだ。

 見ず知らずの国を訪れるのに、大人数は避けた方がいいだろうと考えたからだ。


 なので、ぜひ東国の食材を手に入れたいと参加を希望してきたコークさんは、残念ながらまたの機会に、と言って断らせてもらった。


「何度かこれが空を飛んでいくのを目撃してはいるが、こうして乗るのは初めてだな……」

「すごいわね、これ……冒険するのにものすごく便利そう……」


 そういえば、アレクさんたちって、これが初めての空の旅だったっけ。

 公園の端の方から、恐る恐る地上を覗き込んでいる。


「うふん、東国は久しぶりねぇ」

「ゴリちゃんも行ったことあるの?」

「昔、一度だけね♡」

「どうやって行ったの?」

「あのときは海を泳いで行ったわぁん」

「海を泳いで……」


 相変わらず人間離れしているゴリちゃんだった。


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