第303話 降参するなら今のうちよぉん

「ぐはっ……」


 斬撃を食らい、地面に膝をつくカシム。

 鮮血が足元に広がり、女王を取り囲んでいた影がすっと消えた。


「ば、馬鹿な……? 何で、影と本物を、見分けられた……?」


 カシムが僕を睨みつけてくる。


「うーん、勘かな?」


 適当に答えると、むしろマリシア女王が「か、勘だと……? 咄嗟に信じて動いたのに……」と絶句していた。


「陛下、さすがでございますな! こっちも全員、制圧いたしましたぞ!」


 ガンザスさんが駆け寄ってくる。

 見ると砂賊たちは床に倒れ込み、立っているのはエンバラ兵だけになっていた。


「じゃあ牢屋を作るから、ここに全員入れておこう」


 僕はギフトで牢屋を作成する。


〈牢屋:脱出困難な堅固な牢屋。己の罪を悔い改めよ!〉


 突如として出現した堅牢なそれに驚愕しているカシムたちを、中へと放り込んでいった。

 とそこへ、他の部隊に同行していたフィリアさんが報告に来てくれる。


「ルーク殿、王宮内の制圧はほぼ完了したぞ」

「じゃあ、後は街にいる連中だね。手駒の砂賊たちを通じて、情報を拡散させよう」


 カシムが破れ、王宮がエンバラ兵の手で取り戻されたことが知れ渡れば、すんなり降伏する者も出てくるだろう。

 余計な犠牲を避けることができるからね。



    ◇ ◇ ◇



 マリベル女王率いる本隊がカシムを倒し、王宮中枢の制圧に成功した頃。

 王宮への出入り口となる城門には、急報を受けて駆け付けた砂賊たちが集結していた。


 だが集まったものの、誰一人として中に入ることができない。

 というのも、彼らの前に筋肉の怪物が立ちはだかっていたからだ。


「あはぁん、ここを通りたかったら、アタシを倒していくのよぉ♡」


 そう、ゴリティアナである。

 彼女の周辺には、勇敢にも突撃し、瞬殺された砂賊たちが転がっていた。


 その圧倒的な強さを見せつけられ、もはや戦いを挑む者すらいない。

 ただ距離を取って、戦慄しているだけだった。


「あらん? 誰も来ないのかしら? つまらないわねぇ。今なら出血大サービスで、たぁっぷり可愛がってあげるのに」


 パチン、とウィンクするゴリティアナに、砂賊たちは怯えながら後退る。


「じょ、冗談じゃねぇ……こんな化け物、どうやって倒せってんだよ!?」


 戦意を喪失する彼らの元へ、さらにその戦意を挫くような情報がもたらされたのはそのときだった。


「お、おい、大変だっ! 王宮が陥落させられたみたいだ……っ!」

「何だって!? 王宮にはお頭もいるんだぞ!?」

「そのお頭がやられたんだってよ!」

「マジか!?」

「敵の中には、あの化け物みたいなやつが何人もいるらしいんだ!」

「「「あんなのが何人も!?」」」


 砂賊たちの顔から血の気が引いていく。


「本当よぉん♡」


 ウィンクと共に頷くのはゴリティアナだ。


「さぁて、中は終わったみたいだから、そろそろアタシからも攻撃に出ようかしらぁん?」

「「「~~~~~~~~~~~っ!?」」」

「降参するなら今のうちよぉん?」


 次の瞬間、その場にいた全員が一斉に平伏したのだった。


「「「降参しまああああああああああああああああああああすっっっ!!」」」








 一方、エンバラ兵の残党を討つため、隠れオアシスへと向かっていたカシムの腹心ゼルはというと。

 五百の砂賊たちと共に、その場に立ち尽くしていた。


「おいおいおい、どういうことだよ? 何で誰もいねぇんだ?」


 思わず声を荒らげる彼の目に映るのは、人っ子一人いない小さなオアシスだ。


「情報が間違ってやがったのか? ……いや、少し前まで人がいたような形跡がある。ってことは、俺たちの接近に気づいて事前に逃げ出した? それとも……」


 と、そのときである。

 轟音と共に、オアシスの周囲に巨大な壁がせり上がってきたのは。


「な、何だ!? 何が起こっていやがる!?」


 その城壁はこのオアシス全体を完全に囲っており、出入りできる箇所は一切なかった。

 しかも磨いたように滑らかな壁で、手や足をかけて登ることもできそうにない。


「閉じ込められた……?」


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