第304話 封印が解かれてしまったのか

 王宮を無事に取り戻した後、すぐに街の方も砂賊の支配から解放することに成功した。

 砂賊の大半が降伏したお陰で、ほとんど戦闘も起こらなかったという。


「隠れオアシスに誘導した五百の部隊は、とりあえず閉じ込めてあるよ」

「閉じ込めた……?」


 マリベル女王は首を傾げている。

 後で一緒に見にいくとしよう。


 とそのときだった。

 突然、足元が大きく揺れ、玉座の間がどよめく。


「地震かな?」

「いや、この辺りで地震は滅多に起こらないはずだが……」


 訝しむマリベル女王。

 揺れは収まるどころか、むしろ段々と強くなっている。


「へ、陛下っ! 遺跡が……っ!?」

「遺跡?」


 ここ玉座の間は、王宮の中でも高い位置に存在していた。

 そのため窓からオアシスの街並みに加え、周辺まで広く見渡すことができるのだけれど、街の向こう側には、ピラミッド型をした巨大な建造物が聳え立っている。


「い、遺跡がっ、揺れている……っ!?」


 その遺跡が、見てそれと分かるくらい大きく揺れていたのだ。

 遺跡を構成している石がガラガラと崩れていく。


「震源は遺跡……? ま、まさか……」


 何か思い至ることがあったのか、マリベル女王がハッと息を呑んだ直後。

 ドオオオオンッ、と轟音が響き渡ったかと思うと、遺跡の上半分が弾け飛んだ。


「……何かいる?」


 遺跡の上にぽっかり空いた巨大な穴。

 その奥で何かが動くのが見えた気がして、ぞくりとする。


 あの遺跡、離れているからそれほど大きくは見えないけれど、実際にはかなり大きい。

 高さは軽く二百メートルくらいあるし、底辺の長さはその倍近い。


 その巨大建造物に匹敵する大きさの〝何か〟がそこにいるとすれば、戦慄するのも無理はないだろう。


「な、何なのよ、あれは……?」

「私にも分からないが……あそこにとんでもない存在がいる、ということだけは分かる」


 僕の目の錯覚だったらいいなと思ったけれど、残念ながらそうではないらしい。

 セレンやフィリアさんにもバッチリ見えているようだ。


「カシムっ! 貴様っ! 遺跡に手を出したなっっっ!?」


 牢屋内のカシムを怒鳴りつけたのはマリベル女王だった。


「貴様も元王族なら、あの遺跡がどれほど危険か、理解しているはずだろうっ!?」

「い、いや、オレはてっきり人が立ち入らないよう、そういう体にしているだけで、実際には古代のお宝が眠っているとばかり……」

「っ、貴様は一体どれほど愚かなのだっっっ!!」

「~~~~っ!?」


 女王のあまりの剣幕に、鉄格子を挟みながらもカシムが気圧されている。

 勝手に古代王国の王様の墓か何かだと思っていたけれど、どうやら違ったみたいだ。


 カシムはお宝に目が眩んで、あの遺跡に配下の砂賊たちを侵入させ、内部の調査を行っていたという。

 その結果、とんでもないものを目覚めさせてしまったらしい。


「あそこには、恐ろしい魔物が封印されていたのだ……」


 震える声で告げるマリベル女王。


「……かつては緑多き大地だったこの一帯を、見ての通りの砂漠に変えてしまったのが、その魔物だという」

「ええっ、緑地を砂漠に?」


 一体の魔物が自然環境を変えてしまうとか、正直まったく想像もできないんだけど。


「遥か昔、世界を支配しようとした魔王が従えていたとの記録も残っている……」


 この世界にも魔王っていたんだ……。


 そうこうしているうちに、遺跡の破壊が進んでいた。

 周辺に瓦礫を撒き散らしながら、ついにその魔物の全貌が露わになった。


「パオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」


 自らの復活を祝福するように、その長い鼻を高々と掲げながら凄まじい雄叫びを轟かせる。

 全長二百メートルに迫るその体躯は、もはやちょっとした山だ。


 巨大な耳と牙も有し、その姿はまさしくゾウそのもので。


「獣王ビヒモスっ……やはり封印が解かれてしまったのか……っ!」


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