第372話 あなた方は選ばれたのです
帝国の一件以降、色んな国との交流が大いに活発になった。
ゴバルード共和国、アテリ王国、スペル王国、メトーレ王国といった国々とは、すでに僕の村と主要都市が鉄道によって完全に繋がっている。
そのため移住希望者や観光客、商人など、たくさんの人たちが村にやってくるようになっていた。
さらに最近、あのローダ王国からも、ぜひ鉄道での行き来ができるようにしてほしいとの打診を受けている。
現在、影武者にその作業をやらせている最中だけれど、これが完成したらローダの人々も大勢押し寄せてくるかもしれない。
もちろん東方の国々からも、以前と同じか、それ以上の勢いで人が来ている。
とりわけキョウ国からはなぜかうちの大聖堂に、参拝目的で来る人が非常に多かった。
加えて帝国の属国となっていた国々からも、使者団が頻繁にこの村を訪ねてくるようになっている。
今までの流れから考えて、恐らく遠くないうちにこれらの国々とも交流が始まるだろう。
「うーん、すでに大量にマンションやホテルを作ったけど、まだまだ全然足りないかも? それに城壁を動かして、もっと土地も広げないとダメかも……」
人が増えるたびに広げてきたこの荒野の村だけれど、今やセルティアの王都を凌駕する広さになりつつある。
王都より高層の建築物が多くてそんな状態なので、もちろん人口はとっくに王都を追い抜いていた。
人が大勢やってくるということは、当然、よからぬことを企む人も増えるということ。
「(へっ、こんなに簡単に村に入ることができるとはな。しかもこの人間の数……くくく、大量の魔薬が売れそうだぜ。ん? 何だ、急にいかつい連中がこっちに近づいて……まさか、俺が魔薬を所持していることがバレた? いや、そんなはずは……って、完全に取り囲まれた!?)ちょっ、何しやがる!? 放せっ! うあああああっ!?」
衛兵たちが魔薬の売人を更生施設へと連行していく。
他にも詐欺師だったり、凶悪犯罪者だったり、あるいはテロリストや危険なカルト教団の信徒たちなんかが頻繁に来たりしていた。
村人鑑定を使えば、そうした連中は丸分かりなのだ。
もちろん僕一人じゃ到底チェックし切れないので、影武者たちを村の出入り口に配置して、常時、監視してもらっていた。
もし怪しい者がいたら、衛兵たちのリーダーであるサテンが『念話』のギフトを使ってその心を読み、場合によっては有無を言わさずに強制連行を決行するのだ。
◇ ◇ ◇
「皆さん、準備はよろしいですか?」
「「「「「はいっ!」」」」」
ミリアの問いかけに、熱狂的な返事が返ってくる。
五人一組、計二百組からなる大集団だ。
一様に熱に浮かされたような表情を浮かべた彼らに、ミリアは高らかに告げる。
「あらためて説明する必要もないかと思いますが、あなた方は選ばれたのです。そう、ルーク様の素晴らしさを世界中の人々に知らしめるという、尊い使命を担う伝道師として!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」
大聖堂が揺れんばかりの勢いで、信者たちの声が響き渡った。
彼らはミリアが秘かに手をかけて育て上げてきた、指折りの信仰者たちなのである。
すでにこうした伝道師の部隊は、少なくない数が村を飛び出して、各地で布教活動に励んでいた。
ただしその大半は、セルティア王国内でのこと。
だが今ここに集う伝道師たちが向かう地は、もはやこの国だけに留まらない。
ここ最近、各国との交流が一気に広がってきたことで、ついに国外にまで布教活動の場を広げようというのである。
もちろん全員がしっかりと聖典『ルーク様伝説』を携えている。
「たとえどんな困難があろうとも、皆さんにはルーク様のご加護がございます! 必ずや乗り越えられるでしょう! さあ、行くのです!」
「「「「「おおおおおおおおおおおっ!」」」」」
こうして熱狂的な千人もの伝道師たちが、世界各地に散っていったのだった。
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