第373話 アンデッドが怖いんだろうなぁ

「え? この村の力を貸してほしい?」


 その日、とある冒険者たちから、ある打診を受けた。


「はい。実は我々、少し前からスペル王国で活動しているのですが、どうしても攻略の難しい場所がありまして。冒険者たちはもちろん、騎士団も手が出せず、現地の人々は眠れない夜を過ごされているのです」


 実は彼らは、この村で結成された冒険者パーティなのだという。

 しかし最近、冒険者の活動を通して困っている人たちを助けたいと、新天地を求めて村を出たばかりらしい。


 すごい。

 なんて偉いんだろう。


 確かにこの村はダンジョンや魔境があって、稼ぐだけなら冒険者にとってはこれ以上ない環境だ。

 だけど、魔物に畑を荒らされてしまうとか、ゴブリンが巣を作ってしまったとか、そういう切実な状況で冒険者に依頼をしてくる人なんていない。


「たとえ報酬が少なくとも、人々のためになることをしたいと思ったのです」

「うんうん、なかなかできることじゃないよ」

「(本当は冒険者パーティと見せかけた、伝道師の一団ですけどね! 困っている人たちを助け、感謝されたところで、すべてはルーク様のお陰だと説くのです! そうしてどんどん信者を増やしていく! それこそが、聖母ミリア様の作戦!)」

「ん? どうしたの?」

「いえ、何でもありません!」


 実力的にも優れている彼らは、すでに新天地で大活躍しているという。

 ただ、そんな彼らであっても、解決が難しい案件があるのだとか。


「最上級アンデッドに支配されてしまった街があるのです」







「えっ、あの最上級アンデッドを倒してくれるじゃと?」

「確実に倒せるかどうかは分かりませんが、そのつもりです。ただ、スペル王国内の問題ですし、勝手にやるわけにもと思いまして、一応許可をいただこうかなと」

「むしろぜひやってくれ! 最近段々とアンデッドの領域が広がりつつあって、儂も困っていたところなのじゃ!」


 念のためスペル王国の王様に挨拶に行くと、二つ返事でOKされた。

 ちなみに少し前に招待されたこともあって、王様とは面識があったのだけれど、この謁見自体もすんなりと許可された。


 そうして僕たちは目的地へと向かう。

 王都から北方向、地中海とは逆の向きに空飛ぶ公園で移動することしばし。


 ローダ王国との国境ともそれほど遠くないところに、その都市はあった。


「かつては王国内でも非常に栄えた都市の一つだったそうですが、今やこの辺り一帯がアンデッドの巣窟と化し、魔境になってしまっているのです」


 冒険者パーティのリーダー、ベガレンさんが説明してくれる。


「それにしても暗いですね。まだお昼なのに」

「アンデッドに支配されて以来、この地だけ太陽が昇らなくなってしまったみたいなんです。なので昼も夜も関係なく、アンデッドが徘徊しています」


 地上を見下ろしてみると、確かにそれらしき影があちこちに蠢いていた。

 もし地上から都市に向かっていたら、アンデッドの大群とやり合う羽目になっていただろう。


 正攻法でこの魔境を攻略するのは至難の業で、この国の騎士団が匙を投げていたのも頷ける。


「空から直接、街に乗り込もう」

「そのアンデッドとやらはどこにいるのかしら?」

「うーん、何となく、あのお城が怪しそうだけど……」


 今回このアンデッド討伐作戦に参加しているのは、セレン、フィリアさん、セリウスくん、ゴリちゃん、ノエルくんといったお馴染みのメンバーたちに加え、冒険者であるアレクさんたちだ。


 アレクさんが率いる冒険者パーティ『紅蓮』には、対アンデッドに有効な光系の魔法を使えるガイさんがいるからね。

 ぜひ力を貸してほしいと、こちらからお願いしたのである。


 さらに、本人たっての希望で、アカネさんとマリベル女王も参加していた。

 ついでにガンザスさんとカシムも。


「って、ガンザスはともかく、カシム、なぜお前まで!?」

「マリベル殿下、オレもあんたの力になりたいんだ!」

「その呼び方はやめろっ! お前にそう呼ばれると、全身が痒くなる……っ!」


 カシムはマリベル女王の実の兄だ。

 女王から国を奪った逆賊だったけれど、今ではすっかり更生して、元盗賊たちと一緒に村の衛兵として働いている。ちなみに『暗黒剣技』のギフト持ちだ。


「ところでアカネさん、大丈夫? さっきから顔が真っ青だけど?」

「だだだ、大丈夫でござるよ!? けけけ、決してアンデッドが怖いとか、そういうわけではござらぬからなっ!?」


 アンデッドが怖いんだろうなぁ……。

 もちろんあらかじめ伝えていたはずなのに、何で参加を希望しちゃったんだろう……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る