第185話 影武者だし
「ラウル、これを飲んで!」
村人強化により能力が二倍になったラウルへ、僕はポーションを放り投げた。
「っと。んぐんぐんぐ……はっ、こいつは最高だな。あっという間に全身の痛みが消えていくぜ」
しっかりキャッチしたラウルがそれを飲み干す。
これで先ほどの攻防で受けた傷はすぐに回復するはずだ。
「……私に敗北を味わわせるだと? お前はまだ力の差が分からぬのか?」
「てめぇこそ分からねぇのか? 先ほどまでの俺とは、闘気が桁違いだってことがな!」
「っ……これは……」
「はっ! 時間もねぇから、端から全力で行くぜ、クソ親父っ!」
ラウルが地面を蹴った。
一瞬その姿を見失うほどの速さで、一足飛びに父上との距離を詰める。
「なっ……」
「油断してっと、一瞬で終わっちまうぜっ!」
ガキイイイイイイイイイイイインッ!
剣と剣が激突する、凄まじい金属音が響き渡った。
ラウルが繰り出した斬撃を辛うじて受けた父上だけれど、その威力を抑え切れず、身体が宙に浮き上がる。
「ぐっ!? なんという力……っ!?」
「おらあああああっ!」
「~~~~っ!?」
父上が吹き飛ばされた。
しかも咄嗟に受け身を取った次の瞬間には、すでにラウルは目の前で追撃を放たんと迫っている。
「~~っ!」
「どうした親父っ! その程度かぁぁぁっ!」
さすがは能力二倍。
先ほどまでの力の差は一気に覆り、ラウルが父上を圧倒している。
「ば、馬鹿なっ……この私がっ……」
「おらおらおらっ!」
ラウルの気迫と凄まじい強さ、そしてあの父上が一対一の戦いで押されているというこの状況に、交戦中だった兵たちも思わず手を止めてしまっていた。
「お、おい、何でラウル様が……っ?」
「それより、あのエデル様が苦戦されているだと……っ!?」
「う、嘘、だろう……?」
もちろんラウルには時間制限があるので、必ずしも完全に優位に立っているとは言えない。
それでもこのまま行けば、あの父上を撃破することができるだろう。
と、そのときだった。
ぐさり。
「……え?」
突然、背中に衝撃を受ける。
一体何が起こったのかと恐る恐る振り返ると、そこにいたのは四将の最後の一人。
小柄な男が、僕の背中にナイフを突き刺していた。
「……ラウル様の突然の強化……それはルーク様……あなたの仕業……ならば、先にあなたを始末する、べき……」
そう言えば、いつの間にか姿を消していた。
独特な話し方をするこの四将最後の一人の名は、ピパネル。
彼が得意とするのは、完璧に気配を消した超絶隠密による暗殺だ。
単身で敵陣に忍び込み、気づかれない内に敵の指揮官を始末することで、戦わずして戦いに勝つことすら可能にする。
「……ナイフには……毒が塗ってある……あと十秒もすれば……動くことすらできなくなる……」
「なるほど。確かに近づかれるまで、まったく気配を感じなかったよ。まぁ、マップにはしっかり赤い点で示されてたけどね」
「……? なぜだ……なぜ、ナイフで刺されて……平然としている……? いや、そもそも……血が出ていない……だと……?」
「うん、だってこれ、影武者だし」
「な……」
もちろん痛みもないし、毒も効かない。
一定のダメージを受けると消えてしまうはずだけど、まだそれには達していないようだ。
「影武者の……定義が……おかしい……」
「貴様っ! よくもルーク様をおおおっ!」
「許さんぞおおおっ!」
「~~っ!?」
僕が本体だと思っていたらしく、近くにいた村兵たちがめちゃくちゃ激怒し、ピパネルに襲い掛かった。
「あ、いや、僕は大丈夫なんだけど?」
大丈夫だと手を振ってアピールしてみたけれど、頭に血が上っているせいか、全然気づいてくれない。
「ルーク様! 早くポーションを!」
「うん、慌てなくて大丈夫だって。影武者だから」
村兵たちに押し倒され、ピパネルはボコボコにされていた。
「……それより、ラウルと父上の戦いはどうなったかな?」
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