第127話 前から道路が近づいてくる

 僕は村の外に来ていた。


 石畳の道が真っ直ぐ南に向かって伸びている。

 今のところこの道は荒野を縦断した後に途切れ、そこからは北郡の街道に連結している。


 北郡の新代官となったミシェルさんに乞われて、北郡を丸ごと村に取り込むことになった。

 確かに住民がどんどん流出し続けているのは僕のせいだし、放っておくわけにもいかないと思ったからだ。


 と言っても、北郡の政務そのものは今まで通りミシェルさんが行う。

 僕はあくまで荒野の村の村長なので、単に施設などを建設したりするだけだ。


 ただ、その代わり北郡の住民たちを村人として登録させてもらうことにした。


「なるほどー。施設を作るにはそのポイントなるものが必要で、それには村人が増えた方がいい、ということですかー」

「はい。村人にすることに特にデメリットはないので安心してください。ギフト上のものなので外から判別もできませんし、いつでも除外することが可能です」


 ……強いて言えば、村人鑑定を使うと個人情報が僕に筒抜けになってしまうデメリットがあるんだけど……そこは秘密にしておこう。


「それにしても、何で僕の能力がリーゼンまで及ぶと?」

「あくまで推測ですよー、推測。ラウル様の軍が野営していたところに、ルーク様が忽然と現れたという話を聞きまして。ルーク様のお力は、実はもっと広い範囲にまで及ぶのではと思いましてねぇ」


 何でもないように言うミシェルさんだけれど、敵陣の大将の元に単身で現れたなんて、普通はただの法螺話かと思うだけだろう。

 そこから冷静に僕の力を推理してしまうなんて……。


「それじゃあ、まずは道路からですね」

「道路?」


 この石畳の綺麗な道は、僕が施設作成スキルで作り出したものだ。


〈道路:石畳の道路。疲労軽減、移動速度アップ〉


 と説明文にもある通り、移住者や商人団が「凄く歩きやすい」「なぜか急に馬が元気になった」と絶賛してくれているのだけれど、施設グレードアップのスキルを使うことで、その性能をさらに高めるつもりだった。


「ええと、『移動速度アップ』を、さらに高めて……」


 僕は村ポイントを消費し、「移動速度アップ」を大幅に強化した。


「これで速く歩けるようになったはず……わっ?」


 まるで身体が羽毛にでもなったかのようだった。

 軽く歩き始めただけで、一気に数メートルも進んでしまう。


「凄い凄い! めちゃくちゃ速い!」


 歩いているはずなのに、ほとんど走っているような速さだ。

 振り返ってみると、目を丸くするミシェルさんが遥か遠くに見えた。


「ルーク様、待って下さ――ええっ!?」


 僕を追って走り出したミシェルさんが、一瞬で僕を抜き去っていってしまう。

 ただ、まだ施設グレードアップを施していないところまで辿り着くと、急激にその速度が低下した。


 僕はミシェルさんに追いつくと、


「この道路をリーゼンまで引こうと思います」

「これを!?」

「はい。これなら日帰りができるようになると思いますので」

「リーゼンとこの街を日帰り……」


 唖然としているミシェルさんと共に、リーゼンに向けて歩き出す。

 もちろん道路をグレードアップしながらだ。


「おい、向こうから人が走ってくるぞ?」

「いや、あれって歩いていないか……?」

「は? あんな速さで歩けるわけ――本当だ!?」

「徒歩であの速度ってどういうことだよ!?」


 前から来た人たちに驚かれるけれど、すぐにその横を通り過ぎていく。


「何だっ!? 急に速く歩けるようになったぞ!?」

「どうなってんだ!?」


 そしてすれ違った直後から、その人たちも道路の恩恵を受けて高速で歩けるようになっていった。


 やがて荒野が終わり、そこでギフトで作った道路も途切れる。


「ここからは新しく道路も作っていきますね」


〈この場所はすでに他者の管理下にあります。強奪しますか? ▼はい いいえ〉

〈強奪しました。この場所は村の領内になります〉


 領地強奪を使って村の領内に変え、道路を伸長させていく。


「見ろ! 前から道路が近づいてくるぞ!?」

「馬鹿なことを言うな、そんなはず――本当だ!?」


 また前から来た人たちに驚愕されつつ、リーゼンに向かって真っすぐ突き進む。

 そうして村を出発して数時間が経った頃。


「見えてきましたね」


 北郡最大の都市リーゼンに辿り着いたのだった。


「これなら確かに日帰りも可能に……もしかして私、夢でも見てるんですかねぇ……?」




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一部、設定を修正した部分があります。詳しくは二章最後の『修正点まとめ』をご確認ください。

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