第194話 この建物を使ってよ
ともかく僕はゴリちゃんを村に入れてあげることにした。
「あらん、噂に聞いていた通りだわ! みんなとぉっても健康的じゃないの! やっぱり美の基本は健康だものね! ああん! やっぱりこの村に来てよかったわぁっ! アタシが極めた美の神髄を伝えるのにこれ以上ない場所だわ!」
村の建物なんかに驚く移住者は多いけれど、こんな反応は珍しい。
「それにしても、先ほどはごめんなさいねぇ。アタシったら、ついカッとなっちゃって……恥ずかしいわぁ」
うっすら赤くなった頬を抑え、腰をくねらせるゴリちゃん。
僕は頑張って頷く。
「う、うん、気にしないでいいよ。あれは衛兵も悪かったし」
とはいえ、空気を読んで発言に気を付けるなんて、さすがに彼らにも難しかっただろう。
「うふふ、やっぱり優しいわねぇ……♡」
「ちょ、ちょっと!」
うっとりとした目で僕を見てくるゴリちゃん。
そこへ割り込んできたのはセレンだ。
「あんた何よ、さっきからルークに色目を使って! よく分からないけど、女だっていうなら容赦しないわ!」
どうやら一応ゴリちゃんを女性と認定したらしい。
「あらあら? もしかしてアナタ、村長さんの奥さんかしら?」
「おおお、奥さんではないけど!?」
セレンはぼそりと「まだ」と付け加える。
するとなぜかゴリちゃんは目を輝かせ、セレンの両手を大きな手でぎゅっと握った。
「ああん! と~っても素敵よぉっ!」
「え?」
「アナタって、村長さんのこと大好きなのね!」
「ええっ?」
「もちろんアタシも村長さんのこと良いなって思ったけど、横から割り込むなんて野暮なことはしないわ!」
「そ、そう?」
「むしろ応援してあげるわん! そうね……アナタは今の素材のままでも十分過ぎるほど可愛いけど、アタシの手にかかればもっと美しくて可愛くなれるわよ!」
「ほ、ほんとに?」
「ええ! 間違いないわ!」
……なんだかあっという間にセレンが懐柔されてしまった。
「というわけだから、村長さん。この村に美容院を開業するのを許してほしいの」
「美容院? 美容院って何かしら?」
聞き慣れない首を傾げるセレン。
ゴリちゃんは嬉々として説明する。
「美容院はね、ヘアアレンジやお化粧、ファッション、それにスキンケアなんかも含めて、トータルで美を追求するための場所なのよ!」
「へえ、初めて聞いたわ」
「当然よ! だってアタシが発明したんだもの!」
どうやらゴリちゃんが独自に考え出した概念らしい。
確かにこの世界でまだ美容院なんて言葉を聞いたこともないし、一部の貴族を除けば、髪形を変えたり化粧をしたりということ自体が一般的じゃなかった。
この村にも床屋すらない。
みんな自分で切ったり家族に切ってもらったりしているのだ。
「美容院があれば、みんなアタシみたいに美しくなれるわぁ!」
「そ、そうなの……」
年頃の女の子らしく興味津々だったセレンが、我に返ったような顔になる。
最終的な到達地点がゴリちゃんなら遠慮したいと思ったのだろう。
「大丈夫! 心配しなくても、アタシがアナタを完璧に仕上げてあげるわん!」
セレンが化粧を塗りたくり、フリフリの衣装を着た、ゴリゴリのマッチョになっちゃったらどうしよう……?
不安になった僕は、ふとそれを思い出す。
「そうだ。じゃあ、この建物を使ってよ」
つい最近、レベルアップしたことで新しく美容院を作れるようになったんだった。
〈美容院:容姿を美しくするための施設。みんなで綺麗になろう!〉
これならギフトの効果で、ゴリちゃんの追及する美しさも少しは一般的なものになるかもしれない。
「んまぁ! とぉっても素敵っ! 本当にここを使っていいの!?」
ピンクを基色とした可愛らしい建物に、ゴリちゃんがツインテールを揺らして喜ぶ。
「う、うん。……ただし、ちゃんとお客さんの要望を聞きながら施術を行ってね?」
「もちろんよぉ! アタシは独りよがりなことは絶対にしないわぁっ!」
信じていいのだろうか。
とりあえず任せてみることにしよう。
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