第80話 それは気づいてはいけないことだ

「あれ? 行き止まり?」

「いや、扉がある。だがあれは……」


 ダンジョン二階層を進んでいると、やがて長い廊下に出た。

 その先には大きな両開きの扉が待ち構えている。


「もしかしてボスかしら?」

「え? もう奥まで来ちゃったってこと?」


 ダンジョンには必ず、ボスモンスターと呼ばれる魔物が存在している。

 通常の魔物と比べて遥かに強く、攻略を順調に進めてきた探索者たちでも一筋縄にはいかない相手だという。


 どうやら思ったより小さなダンジョンだったようだ。

 ダンジョンというと、何階層もあるイメージだったんだけど。


 少し拍子抜けしてしまう僕に、フィリアさんが言う。


「そうでもない。二階層しかなくとも、かなり複雑な構造をしていたからな。通常ならもっと探索に時間を要しただろう。カムル殿が初見ながら完璧に正しいルートを提示してくれたからこそ、ここまで簡単に攻略できたのだ」

「そ、そんなことは、ねぇです……」


 フィリアさんに賞賛されて、カムルさんが恥ずかしそうに頭を掻く。

 やっぱり『迷宮探索』のギフトは有効だったみたいだ。


「それでどうする、ルーク殿? 見た限りまだ皆に余力はあるが、いきなりボスとの戦闘というのはなかなかチャレンジだぞ」

「うーん……」


 少し悩む。


「でも、どんな魔物かだけは見ておこうかな? 厳しそうならすぐに逃げる感じで」


 幸い僕のギフトを使えば、逃げる時間を稼ぐのはそう難しいことじゃない。


 というわけで、僕たちはその扉を開けた。

 するとその先にあったのは、今までで一番広い空間だ。


 そして僕たちを待ち構えるように、部屋の中心に立っていたのは、


「ミノタウロス二体……?」


 二体のミノタウロスである。

 見たところ、これまで遭遇してきた個体と区別がつかないけど。


「気を付けろ。見た目は普通のようだが、ボスモンスターだ。上位種だったり、特別な力を持った個体かもしれない」


 フィリアさんがそう忠告を口にした直後、二体のミノタウロスが同時に動き出した。


「「ブモオオオオオッ!!」」


 雄叫びを上げてこちらに突っ込んでくる。

 ノエル君とゴアテさんが盾を手に前に出た。


 だけど、フィリアさんが言う通り、これまで遭遇した個体と同じ強さのミノタウロスとは限らない。

 ノエル君はともかく、ゴアテさんは通常個体のミノタウロスですら苦戦していたのだ。


 僕は咄嗟に二人の前に石垣を作成していた。

 強烈な激突音とともに、ミノタウロスたちがそれにぶつかる。


 さらに僕は、石垣をカスタマイズしてゴーレムを出現させた。

 ミノタウロスより、さらに一回りも二回りも大きなゴーレムだ。


 衝突し、少しふら付いている二体のミノタウロスたちの喉首を掴み上げる。

 そのまま地面に叩きつけてやった。


「「~~~~ッ!?」」


 ゴーレムの巨腕から解放してあげても、ミノタウロスたちは白目を剥いていて起き上がる気配がない。


「……あれ? もしかして普通のミノタウロスと大差なかった?」

「どうやらそのようだな」


 フィリアさんが呆れた顔を僕に向けながら同意する。


「……おれ、いなくても……村長は大丈夫……」

「ノエル……それは気づいてはいけないことだ」


 ノエル君はなぜか悲しそうな顔をしていて、ゴアテさんは彼の肩にぽんと手を置き、首を左右に振った。


「と、とにかく、これでボスを倒したってことかしら?」

「あ、あそこに……」


 セレンが戸惑い気味に言い、カムルさんが何かに気づいて部屋の奥を指をさす。

 するとそこにあったのは、何やら豪華に装飾された箱だった。


 フィリアさんが言う。


「宝箱だな。恐らくダンジョン攻略の報酬だろう」

「わ、罠ではなさそうです……」


『危機察知』のマルコさんも、カムルさんも、罠ではなさそうだというので、早速、開けてみることに。


「これは……」

「ただの剣……?」


 宝箱に入っていたのは、ごく普通の鋼製の剣だった。


「え? 何か特別な効果でもある剣かな?」

「そんな感じはしないが……」


 ダンジョン攻略の報酬にしては、随分と渋い気がする。

 神話級とは言わずとも、せめて伝説級の武具などが入っているものだろう。


「まぁでも、業物ではありそうだし、一応貰っておこうかな?」

「いや、待て。明らかに報酬として相応しいものではない。こういうときはダンジョンマスターと交渉すべきだろう」

「交渉……?」

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