第249話 それは影武者に任せようかな

「高さはこれくらいでいいかな?」


 要塞都市の南端に築いた物見塔の上から、僕は東西に長く伸びる城壁を作っていた。


 その高さは大よそ二十メートルほど。

 一方で、左右はここから見える限り伸ばしたので、恐らく数キロ以上はあるだろう。


「な、な、な……」

「くくく、相変わらず出鱈目なことするじゃねぇか」


 タリスター公爵は呆気に取られ、ラウルは面白そうに笑っている。


「いきなりこんなもんが目の前に現れたんだ。進軍中の敵が可哀想になるぜ」

「でもまだ完成じゃないよ。国境を横断するくらいまで伸ばしたいし」

「こ、国境を横断じゃと!?」


 公爵は目を剥いて叫ぶ。


「それは影武者に任せようかな」

「「呼んだ?」」


 僕は二体の影武者たちを呼び出し、城壁のさらなる延長を指示する。


「瓜二つの人間が現れた!? ど、どういうことじゃ!?」

「くくっ、こいつのやることにいちいち驚いていたら持たねぇぞ」


 影武者たちが瞬間移動で消えると、僕はさらにこの城壁に色んな仕掛けを施すことにした。


「まずはこの都市から、簡単に行き来できるようにして、と……」


 都市を護る城壁との間を橋で繋ぐ。


〈橋:鉄筋コンクリート製の橋。高強度。抗劣化。構造や形状の選択が可能〉


「これでよし、と。じゃあ、次はあっちに移動しよう」


 僕は瞬間移動を使って作ったばかりの城壁の上へ。


「この上を素早く移動できるよう、道路にしておこう。それから垂直方向にも城壁を伸ばして……」


 Tの字が並んでいるような形になった。

 これによって、敵を正面からだけではなく、左右からも攻撃できるようになるのだ。


『国の端まで伸ばしたよー』

『こっちもー』


 そこで影武者から報告が来たので、今度は道路とT字を作りながら戻ってくるようお願いしておく。


「おい、見ろよ、バルステ軍の連中。めちゃくちゃ呆けてやがるぜ」


 突如として現れた城壁に進路を完全に塞がれたことで、バルステ軍は進軍を止めていた。

 ポカンとした顔でこの城壁を見上げている。


「完成したよ」

「こっちも終わった」

「うん、ありがと」


 影武者が戻ってきた。

 よし、これでこの巨大城壁の完成だ。


「名付けて『万里の長城』だね(パクリ)」




   ◇ ◇ ◇




「す、凄いぞ! 本当にマジでずっと先まで続いてやがる!」

「それにこの高さと堅固さだ! そう簡単には敵も乗り越えられまい!」

「しかもこの上、めちゃくちゃ速く歩けるぞ!?」


 タリスター公爵軍の兵たちは、突如として現れた謎の壁に興奮していた。

 迫りくる大軍を前に、一体どうなることかと思っていた彼らだが、これで形勢が逆転したことを確信する。


「だが一体こんなものどうやって……」

「ルーク様に違いない!」

「ルーク様……?」

「知らないのか? あの荒野の村を築いた救世主様だ! そしてアルベイルから王都を奪還したばかりか、各地に鉄道なるものを作って、この国を一つにしようとされている!」

「あ、あれって本当なのか? あまりに荒唐無稽だから、てっきり作り話かと……」

「作り話などではない! 現に国軍の連中は、その鉄道でここまで来たそうだ! 俺も地下に作られた鉄道の駅とやらを実際にこの目で見たしな!」


 どうやら遠く離れたこの南方の公爵領にも、ルークの名は広がりつつあるらしい。


「マジか……凄いな……」

「ルーク様のことをもっと知りたいなら、ぜひこれを読むといいぞ!」

「これは……本か?」

「ルーク様のこれまでの軌跡を描いた書物だ! 今のところ第二巻まで発売中だ! ああっ、続きが待ち遠しい……っ!」


 ……信者も増殖しているようだった。




   ◇ ◇ ◇




「た、大変です! あの謎の壁の先を調べさせたのですが……こ、国境を完全に横断するところまで続いているとのことでした……っ!」

「ば、馬鹿なっ!?」


 バルステ軍の総大将は信じがたい報告を受けて、思わず馬上から落ちそうになってしまった。


 しかもそんなものが、突如として地面から生えてきたように見えたのだ。

 自らの目で目撃したものであるにもかかわらず、まだ信じることができていない。


「う、噂では、一人の少年があれをやってのけたと……」

「どういうことだ……?」


 もし敵国にそんな化け物がいるとしたら、どう考えても適うはずがない。

 結局バルステ軍は戦う前に白旗を上げ、撤退することにしたのだった。


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