第307話 むしろこっちが恩恵を受けてないか

「体内に重りが入ってるわけだし、海に沈めたら二度と浮き上がってくることはできないよね?」


 三次元配置移動のスキルで動かすことができるようになったビヒモス。

 このまま海の底に沈めてしまうことを考えたけれど、ちゃんと死んだことを確認しておかないと安心できないと思い直す。


 伝説の魔物だし、もしかしたらこれでも死なない生命力を持っている可能性がある。

 再生能力を有している場合もあるだろう。


「というだけで、死ぬまで攻撃を続けよう」


 体内の施設を上下に大きく動かしたり、ぐるぐる回転させたり、さらにはそれぞれの施設を別方向に動かしたりしてみた。

 その度にビヒモスは「パオオオンッ!?」と苦悶の鳴き声を響かせる。


「な、なんだか少し、可哀想に思えてきたわね……」

「村長ちゃんにかかれば、伝説の魔物も形無しねぇ」


 う~ん、でも、まだまだ死ぬ様子はない。

 やっぱり途轍もない耐久力だ。


「じゃあ、施設を徹底的に尖らせて、と」


 施設カスタマイズのスキルを使い、体内の施設という施設を圧縮し、その形状を槍に近いものへと変えていく。


「これで動かせば……」

「パオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!?」


 ビヒモスがひと際大きな声で鳴いた。

 よし、効いてるみたいだ。


 鋭く尖った建物が、ビヒモスの体内に突き刺さっているのだろう。

 やはり外側に比べて、内側は柔らかくできているらしい。


 そのまま何度も何度も施設を左右上下に動かし続けると、ついには鳴き声を上げる余力もなくなった。

 鼻がぐったりと下に垂れ、その先端や口からは泡を吹くように大量の砂が垂れ流されていく。


「死んだかな?」

「ううん、まだ生命力が感じられるわぁ。でもそれも残り僅か。すでに瀕死状態ねぇ」

「じゃあ、これでトドメ」


 槍状に加工した城壁の一つを、ぐるぐると回転させながらビヒモスの首元の方向へと進めていった。


 そうしてしばらくすると、ついにその硬い肉と皮を突き破って、城壁槍が飛び出してくる――前に止めておいた。

 だって見ただけで痛そうだし。


「今度こそ死んだみたいよぉん」


 幸いこれでビヒモスは絶命したようだ。







「かつてビヒモスは勇者に倒された。だが放置された死体は、時間が経つにつれ、少しずつ再生していったという。ゆえにあのような遺跡を作り、強力な封印を施したのだ。仮に完全再生したとしても、目を覚ますことがないように、と」


 というエンバラ王国に伝わる話は、実際にビヒモスが復活したことによって、かなり信憑性が高くなってしまった。

 そこでビヒモスの巨大な死体は、村で預かることに。


「「「何じゃありゃあああああああああ~~~~~~~~~~~~っ!?」」」


 空を飛んで巨大なゾウが運ばれてきたときの村人たちの驚きようは、サメのそれを大きく上回るものだった。


「解体しちゃえばさすがに復活できないよね?」


 との考えから、村の職人たちにビヒモスの解体をお願いした。


 その大きさと信じられない皮膚や肉の硬さから、解体作業は難航を極めたものの、さすがはこの村の職人たちで、徐々に巨体がバラされていく。


 生憎と肉が硬すぎて、食材にはできなかったけれど、皮膚や骨、牙といった素材はドワーフたちが作る武具などに利用され、臓器類はエルフたちが調合する薬剤に使われたのだった。



   ◇ ◇ ◇



「なんかとんでもない魔物がいるのじゃあああああああっ!?」


 横たわる巨大なゾウの魔物に、最も驚愕していたのはドラゴン幼女ことドーラだった。


 前回のサメはドラゴン状態の彼女と同じくらいのサイズだったが、目の前の魔物はなんとその十倍近くもある。

 それが人間たちに倒され、そして解体されているのだ。


「やはり人間は恐ろしいのじゃ……絶対に逆らわないようにしないとなのじゃ……」



   ◇ ◇ ◇



 砂賊からオアシスを奪還し、またビヒモスも倒したことで、砂漠のエンバラ王国には平和が戻った。


「それもこれもすべて君たちのお陰だ。本当にありがとう」


 マリベル女王からは大いに感謝され、褒美として王家に伝わるお宝をくれようとしたけれど、丁重にお断りした。


「宝は要らないか……。ならば爵位はどうだ?」

「もっと要らないです」


 さらに一代限りの名誉爵位を授与したいと言われたけれど、こちらもきっぱりと辞退する。

 以前、セルティアの王様からも爵位を与えたいとの話がきたことがあって、僕はあくまで村長だからと断ったことがあるのだ。


「では一体どうすればよいのだ!? あれだけのことをしてもらって、何の褒賞も与えらぬとあっては我が国の名折れ!」

「うーん、それじゃあ、うちの村からここまで地下鉄を通してもいい?」

「ちかてつ……?」


 最初は荒野の村との交流だけだった。

 けれどそれをきっかけに、やがてはセルティア全体とエンバラとの間で、積極的な貿易が行われるようになっていく。


 セルティアの王都と直通する地下鉄道も作られ、この王都を経由すれば、エンバラから王国中の主要都市に僅か数時間で行くことができるようになった。


 さらにエンバラの噂を聞きつけた他の砂漠の国々もまた、セルティアとの貿易を望み始める。

 そのため砂漠中に地下鉄を張り巡らした結果、砂漠の国同士での交流も活発になっていったのだった。


 これまで何日もかけて危険な砂漠を旅する必要があったのが、安全に、しかも短時間で行き来できるようになったのだから、砂漠の商人たちは泣いて喜んだという。


「……いや待て。褒美を与えるつもりが、むしろこっちが恩恵を受けてないか?」

「細かいことは気にしなくていいと思うよ」




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