第306話 一寸法師とかでもあるじゃん
「それだ! 内側から攻撃すればいいんだ!」
いいアイデアを思いついて、僕はつい大きく手を叩いてしまった。
「何を言ってるのよ?」
訝しむセレンに、僕は言う。
「ああいう大きな相手は、身体の中に入って攻撃するのがセオリーなんだ。ほら、一寸法師とかでもあるじゃん」
「いっすんぼうし……?」
って、セレンが知るはずもないか。
「というわけで、ちょっとビヒモスの中に行ってくるね。あ、一応この身体は影武者だから」
ギフトで作り出した影武者でも、あんまり酷い扱いをしたらクラーケン釣りのときのように怒られかねない。
でも今は緊急時だし、気にしている余裕などなかった。
僕は瞬間移動を使って、ビヒモスの体内へと飛んだ。
「臭……っ!?」
そこは完全な暗闇の中だった。
しかも鼻が捻じ曲がりそうなほどの悪臭を吸い込んで、一瞬で吐きそうになってしまう。
足元はぬかるんだ土のようにぶにぶにで、歩いて移動するのは難しそうだ。
「(ここはビヒモスの腸の中だと思う。長い間眠ってたから、食べたものは全部無くなってるはず。……そうじゃなかったらもっと臭いんだろうなぁ)」
もちろんこんな場所に長居などしていられない。
僕は早速、攻撃を仕掛けることにした。
攻撃、と言っても、やることは
できるだけ硬くて重くて大きなものがいいだろう。
ポイント効率も考えて――
「(とも思ったけど、細かいことなんて気にせず、とにかく適当に作りまくっちゃえ!)」
まずはお馴染みの城壁だ。
高さ五メートル、長さ五十メートルの城壁を三列、ビヒモスの腸内に並べてやる。
「~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」
体内にいてもビヒモスが慌てたのが分かった。
いきなり自分の体内に巨大な異物が現れるとか、想像するだけで怖いよね。
さらに僕は、三次元配置移動で動かす小屋の屋根に乗って移動しつつ、マンションやホテル、タワーマンションなんかをどんどん作っては、ビヒモスの体内を埋めていった。
ちなみに施設の作成は、空いている空間が存在しないとできない。
なので、臓器や皮膚を貫くような形で施設を生み出したりするのは不可能だ。
「(普通の大きさじゃ施設を体内に作るなんて難しいけど、この巨体が仇になったね)」
腸内から胃にかけて埋め尽くしたところで、僕は瞬間移動で体外へと戻った。
「パオオオオオオオオオオオオンッ!!」
ビヒモスは苦しそうな鳴き声をあげながら暴れていた。
もはやそれどころではないのか、鼻からの砂の噴射は完全に停止している。
「戻ってきた! ルーク、何をやったのよ!? さっきから信じられないくらい痛がってるんだけど!」
「ビヒモスのお腹の中にちょっとした街を作ってきたんだ」
「……どういうこと?」
体内に建物を乱造されて、元から大きなビヒモスの身体が、さらに少し膨らんだようにも見える。
普通の生物であれば、このまま放っておくといずれ衰弱死するだろうけど、相手は伝説上の魔物だ。
そう簡単には死なないだろうし、動くたびに起こる地震のせいで、街の被害が大きくなりかねない。
「でも、体内の施設を三次元配置移動で一斉に動かせば……」
ズズズズズズズズズ……。
「「「ビヒモスがっ」」」
「「「浮いたあああああああああっ!?」」」
身体の中に作った施設を空へと移動させたことで、ビヒモスの巨体も一緒に宙へと浮き上がった。
「パオオオオオンッ!?」
未だかつて味わったことのないだろう事態に、鼻をぶんぶん回して抗おうとするビヒモスだけれど、どうすることもできない。
空に浮いてくれたお陰で、地震も収まってくれた。
「このまま海に沈めてこようかな? それとも……」
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