第71話 お騒がせしてまーす

「この石垣をカスタマイズして……」


 石板にあった絵をイメージし、まずは縦に長く伸ばす。

 それから手や足、さらには頭の部分を作り出した。


「すごい……」


 石垣によってあっという間に生み出されたゴーレムを見上げ、ドナが感嘆の声を漏らす。

 その姿は石板に描かれたイラストと瓜二つだ。


「ちゃんと動くよ。ほら」


 さらに僕は施設カスタマイズを応用し、ゴーレムの手足を動かしてみせる。

 バランスを取らせるのがなかなか難しいな……。


「動いた!」

「うん。でも驚くのはここからだよ」

「?」


 ゴーレムを中腰にさせると、地面すれすれまで片腕を伸ばす。


「ほら、ここから登っていくことができるんだ」

「ん!」


 興奮した様子のドナの手を引いて、ゴーレムの腕に設けた簡易階段を上がっていく。

 そうしてゴーレムの頭のところまで辿り着くと、


「見てごらん。中に入れるんだ」

「っ!」


 ゴーレムの側頭部に設けられた入り口。

 そこからゴーレムの頭の中に入ることができるようになっていた。


 今はまだ、ただの穴倉だ。

 そこで僕は外が見えるように前方に窓を作り、さらには座れるような椅子を設ける。


「よし、このまま村の中を散歩してみよう」

「ん!」


 石垣ゴーレムに乗ったまま、ゴーレムを動かしていく。

 ズン、ズン、ズン!


 って、中にいると結構な振動がくる……っ!

 それに外から見ているより、ずっと操縦が難しかった。


 ゴーレムを動かすたびに、ドナの小さな身体が上下に跳ねる。


「すごい! すごい! 動く! 動いてる! すごい! すごい!」


 それでも彼女は大喜びで、先ほどまでの無口さが嘘のように目をキラキラさせて叫ぶ。


「お、おい、何だ、あれは!?」

「ゴーレム!? なぜ村の中に!?」

「って、あそこ、誰か乗ってるぞ!」


 ゴーレムを歩かせていると、村人たちが何事かと集まってきた。


「あ、お騒がせしてまーす」

「「「村長!?」」」


 僕は手を振って彼らに応じる。


 それから僕たちは村の中をゴーレムに乗って一周した。

 その結果、


「「おええええええっ!」」


 ――めちゃくちゃ気持ち悪くなった。


 地上に降りた僕とドナは、そろって盛大に嘔吐してしまう。

 興奮であんなに赤くなっていたドナの顔は、今や真っ青だ。

 きっと僕も同じような顔をしているだろう。


 ゴーレムの振動で、酔ってしまったのである。

 村をたった一周しただけで限界だ。


「これは乗り込むものじゃないね……」

「ん……」

「この石板の古代兵器は違ったのかな?」


 もしかしたら、ちゃんと乗り手に優しいものだったのかもしれない。

 そうでなければ、これに乗って戦うことなど不可能だろう。


「きっとそう」

「だとしたら凄いね。ドワーフたち、今はあんな感じだけど……」

「いつか、作る」


 ドナがやる気に満ちた目をして言う。

 一年後に『兵器職人』というギフトを彼女が授かったら……いずれ本当にこの兵器を作ってしまうかもしれない。


 ただ、もしそんな兵器が生み出されてしまったら。

 兵器というのは戦争の道具。

 きっと大勢の人を殺すために使われることだろう。


 かつてのドワーフたちも、その強大な力で世界を支配しようとしたというし……。


「ドナは……どうしてそんな兵器を作りたいの?」

「……」


 僕の質問に、ドナは少し考えてから、


「……わたしたち、弱い。だから……ずっと穴倉に籠ってた……それでも、住処を、追われた……。もし強い武器があったら……戦えた」

「っ……」


 ドナの言葉に、僕はハッとさせられた。


 確かに戦う力というのは、守るための力にもなる。

 この村だって、もし何の力もなかったのなら、今頃は盗賊団やオークの群れによって壊滅させられていただろう。


 どんなに平和を望んだって、叶わないこともある。

 今後、この村を害そうとする勢力が現れるかもしれない。


「そうだね。やっぱり戦う力はないと。……攻めるためのものじゃなくて、この村を守るために」

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