第213話 踏み台としてやるぜ
優勝賞品という最大の懸念が発生しつつも、ともかく無事に武闘会の予選が始まった。
地下に作った八つの予選会場に出場者たちが集合し、緊張の面持ちで出番を待っている。
ちなみに予選会場にも観客席が設けてある。
基本的には出場者の家族なんかが見学できるようにとの考えで作ったのだけれど、意外にもどの会場にも大勢の観客がいた。
初めての武闘会ということもあって、村中が注目しているのだろう。
なお、ルールは本戦と予選で共通なのだけれど、これ以上は戦えないと判断されてレフェリーストップがかかったり、自ら負けを宣言したり、正方形の対戦リングの外に出てしまったりすると敗北となる。
急所への攻撃は禁止。
対戦相手を殺してしまうと負けになり、レフェリーの指示に従わなくても負けだ。
これらの反則行為をすると、更生施設送りになる。
〈更生施設:悪人や罪人を更生させるための施設。改心確率アップ〉
各会場に十分なポーションを用意し、会場に併設する形で病院を置いてあるので、よほどのことがない限り大丈夫なはずだ。
〈病院:入院設備のある診療施設。患者の苦痛軽減。自然治癒力アップ。医療行為の効果アップ〉
「ん? あれは……」
予選の様子を見て回っていると、とある会場である人物に目が留まった。
中央に設けられた戦いのリングに、今まさに上がろうとしていたのはマンタさんだ。
旧アルベイル領北郡の村から移住してきたマックさんの息子さんで、確か一時期、更生施設に入れられていたはずだ。
……アレでスイカを割って見せると豪語し、裸になったところを衛兵に取り押さえられたんだっけ。
一応しつこく女性をナンパするなど、普段から迷惑行為を繰り返していたのも原因らしい。
「ちゃんと更生したのかな」
そう思いながら様子を窺っていると、
「はははっ! 俺はもうかつての俺じゃねぇ! ちゃんと真っ当な方法で女の子をゲットしてやるぜ! そう! この大会で良いところを見せて、モテまくるんだっ!」
うーん……どうやら性根はあまり変わっていないらしい。
でも、真っ当と言えば真っ当か。
だけどマンタさん、ギフトがあるわけじゃないし、武技の経験があるわけでもない。
どうやって勝つつもりなのかな?
「この日のために訓練場とやらで剣を振ってきたんだ! 俺は知ってるぜ! あそこで訓練すれば、普通より何倍も上達が早くなるってな!」
マンタさんは意気揚々と剣を抜く。
「はっ、お前を俺のモテ人生の踏み台としてやるぜぇっ!」
そして試合が開始するや否や、正面から対戦相手に斬りかかっていった。
パキンッ!
「……あれ?」
あっさりとその剣を弾かれ、間抜けな声を出すマンタさん。
隙だらけになったところへ、すかさず反撃をもらってしまう。
「あべしっ!?」
手加減されたようで、剣の腹で頭頂部を打たれたのだ。
それで白目を剥き、どさりと倒れ込むマンタさん。
「まぁ、そうなるよね……」
だってマンタさんの相手、もっと前から訓練場に通っていた人だし。
付け焼刃の訓練じゃ手も足も出なくて当然だった。
マンタさんは気を失って起き上がる気配はない。
試合続行不可能と見なされ、敗北となってしまった。
「あ、あそこにマックさんが……」
何だかんだ心配で様子を見に来たのだろう。
だけど瞬殺されてしまったことで、溜息を零しながら帰っていく。
……うん。
あのマンタさんが武闘会に出るために頑張っただけでも、十分な成長だと思うよ?
戦闘系のギフトを持っていなくても、普段から訓練場でトレーニングをしている村人が多い。
それもあって、予選ながらどの試合も見ごたえのあるものとなった。……マンタさんのを除く。
だけどそんな中、圧倒的な実力で勝ち上がっていく出場者たちがいた。
もちろんセレンやフィリアさんといった本戦出場の大本命たちだ。
セレンは試合開始から十秒も経たずに相手を倒したし、フィリアさんは対戦相手が近づく隙も与えずに勝利。
本戦出場を目指し、順調に駒を進めていった。
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