第212話 出るわけねぇだろ

「なかなか面白そうなことやってんじゃねーか」


 相変わらず昼間からお酒を煽りながら、ほろ酔いのミランダさんがクククと笑う。

 ずっと部屋でゴロゴロしてるくせに、一体どこから聞きつけたのか、どうやら武闘会のことを知ったらしい。


「よかったらミランダさんも出てみませんか?」

「おいおい、出るわけねぇだろ?」

「まぁそう言うと思ってました」


 もしミランダさんが出場していたら、断トツの優勝候補だった気がする。


「オレはここで酒でも飲みながら、ツマミ代わりに見学させてもらうぜ」


 ……この部屋からどうやって見学するのだろう?


「それはそうと、ミリアからどんなお仕事を任さてるんですか?」


 ミリアが言うには、何かミランダさんにしかできない仕事を頼んだらしい。

 それと引き換えに、部屋の掃除や食事・お酒の準備などを、すべてミリアがやってあげることにしたようだ。


 ちゃんと働いてくれているというなら、僕も文句はないけれど、どんな仕事なのかは気になるところだった。


「そ、そんなのは何でもいいじゃねぇか……」


 珍しく目を泳がせ、歯切れの悪いミランダさん。

 もしかして僕に言えないようなことなのかな……?


 嫌な予感がしつつも、口を割らなさそうだったので追及するのは諦めた。


 それからも着々と準備が進んでいき、正式に一週間後から武闘会を開催することとなった。

 急なことなので今回はあまり観光客を期待できないだろうけど、村は大盛り上がりで、あちこちでこの話題で沸騰していた。


「えっ!? 出場希望者が八百人を超えた?」

「は、はい。思いのほか、希望者が殺到してしまいまして」


 ……予選会場を増やさないとダメそうだ。

 あと予選の日程も変更しないと。


「対戦の組み合わせを考えるだけでも大変そうだね……。僕の影武者を使っていいよ」

「ありがとうございます!」


 そして無事に準備も終わり、ついにこの村初の武闘会が開催される運びとなった。

 といっても、まずは予選からだ。


 全八日間の日程で行われ、最初の四日間は予選、そして後半の四日間が本戦となる。


 本戦に出場できるのは、予選を勝ち上がった三十二人だけ。

 出場者はあれからさらに増えて千人を超えたので、本戦に進むだけでも狭き門だ。


 予選は全部で八つの会場に分かれ、各々の会場から四人ずつが本戦に出場できる。

 もちろんこのために予選会場は八つに増やした。


 その予選はトーナメント形式だ。

 だいたい一つのブロックに百人ちょっといるので、五回くらいは勝たなければならない。


 さらに本戦もトーナメント形式になっていて、ここでも五回勝ってようやく優勝となる。

 つまり優勝しようと思うと、予選からトータル十戦全勝しなければならないということだ。


 ちなみに組み合わせはランダムではなく、ある程度、実力のある人がバラけるように運営側で調整させてもらった。

 異論はあるかもしれないけど、あまりに戦力が偏って、強い人同士が潰し合って予選落ちしちゃったら面白くないしね。


 なお、本戦に関しては公平を期して、クジ引きで対戦順を決める予定だ。


 そうして厳しい戦いを勝ち抜き続けた優勝者には、豪華な賞品が送られる――らしい。

 僕もまだ内容を聞かせてもらってなかったな。


 公にも発表されてなくて、確か、その方が盛り上がるからとかで、開会式のときにベルリットさんが明らかにするって言ってたっけ――




「なんと、村長に何でも一つだけお願いを叶えてもらえる権利だぁぁぁぁっ!」




 いやいやいや何勝手に決めちゃってんの!?


「「「うおおおおおおおおおおおっ!!」」」


 しかもすっごい盛り上がっちゃってる!


「よっしゃあああっ! 絶対優勝してやるぞおおおっ!」

「これは優勝するしかないわね!」

「くっ……こんなことならわたくしも出場しておけば……」


 ……これじゃ今さらなかったことにできないじゃんか。


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