第407話 手加減してもよかっただろうに

「オレの名はチェリュウ。アマゾネスの戦士長だ」

「アマゾネス……?」


 それって確か、女性しかいない戦闘民族じゃなかったっけ?


「オレたちは強い男を求めてこの村に来た。だが今のところ大した男なんていやしねぇ。トップの村長も、この有様だしな。遠くから来たが、マジで無駄足だったみてぇだな」


 チェリュウさんは嘆くように顔を顰める。


「ええと、村長って別に強い必要ないと思うけど……?」

「あ? まさか、人族ではそうなのか? オレたちの村では違う。一番強い者が、次の族長だ」


 戦闘民族らしい価値観だ。

 とそのとき、護衛として一緒に付いてきてくれたノエルくんが口を開いた。


「村長は……弱く、ない……むしろ、この村で、一番強い」

「ノエルくん……」


 いや、強くはないでしょ?


 まぁギフトを上手く使って戦えば分からないけど、真っ向勝負だとそこで倒れている衛兵にも瞬殺されちゃうだろう。

 そして目の前のアマゾネスの言う「強さ」というのは、真っ向勝負での強さに違いない。


「はっ、そんな雑魚そうなのが?」

「村長を……馬鹿にするな……おれが、許さない」

「ほう? てめぇ、その体格、なかなか強そうじゃねぇか。ちょうどいい。そこまで言うなら、どう許さねぇのか、見せてみやがれっ!」


 チェリュウさんが地面を蹴った。

 凄まじい速度で距離を詰め、ノエルくんに迫る。


 ドオオオオオオオンッ!!


 放たれたのは強烈な回し蹴り。

 それをノエルくんが盾で受けると轟音が鳴り響いた。


「っ……こいつ、オレの蹴りを、顔色一つ変えずにっ……」

「あれだけ豪語しておいて……むしろ、この程度……?」


 驚くチェリュウさんに、ノエルくんは挑発的な言葉をぶつける。


「でかい図体しているだけはあるじゃねぇか! だがな、今のはほんの挨拶代わりに決まってんだろ!」


 ノエルくんの盾を逆足で蹴って宙返りしたチェリュウさんは、着地と同時に再び躍りかかった。

 繰り出される拳に対し、ノエルくんはやはり盾でガードしようとする。


「そいつはフェイントだっ!」


 だけど寸前で拳を止めたチェリュウさんは、下から盾を救い上げるような蹴りを放った。

 重量級のノエルくんの盾が、その手から離れて宙を舞った。


「盾なしで、オレの蹴りを受け止められるなら受け止めてみやがれっ!」


 無防備になったノエルくんへ、再びチェリュウさんの渾身の回し蹴り。

 今度こそノエルくんの脇腹に足が突き刺さった。


 ドオオオオオオオンッ!!


「死んだな」

「ああ。アマゾネス最強の戦士に挑んだのが運の尽きだ」

「チェリュウも、もう少し手加減してもよかっただろうに」


 勝利を確信したアマゾネスたちが、そんなやり取りをしていると。


 がしっ。


 ノエルくんがチェリュウさんの足を掴んだ。


「なっ? ば、馬鹿なっ……オレの蹴りをまともに喰らって……動いているだとっ?」

「……痛くない……この程度なら……全然……」

「う、嘘を吐くんじゃねぇ! 内臓の一つや二つ、破裂しているはずだ……っ!」

「盾役の……防御力を、舐めるなっ……たとえ盾がなくても……ぼくには筋肉の、鎧がある……っ!」


 以前は身長こそ高くても線が細かったノエルくんだけど、筋トレに励んだ結果、今ではゴリちゃんに匹敵する体格となっている。

 どうやらその鍛え抜かれた身体そのものが、凄まじい防御力を持つに至っていたらしい。


「っ、てめぇっ!?」


 ノエルくんは足を掴んだまま、チェリュウさんを豪快に振り回し始めた。

 明らかに内臓がやられているような動きじゃない。


「おおおっ!」

「~~~~~~~~っ!?」


 そうして思い切り空に向かって放り投げるノエルくん。

 先ほど蹴り飛ばされた盾を回収すると、チェリュウさんの落下地点へ。


「シールドバッシュっ!」

「ぐあああああああああああっ!?」


 猛スピードで吹き飛ばされたチェリュウさんは、地面を何度もバウンド。

 ようやく止まったときには、ぐったりして動かなくなってしまった。

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