第196話 アタシの弟子よぉん

 ゴリちゃんが経営する美容院は、あっという間に村中に知られることとなった。

 最初は半信半疑というか疑い百パーセントだった女性たちも、セレンとミリアの変貌ぶりを知れば、すぐにゴリちゃんの施術を受けたいと殺到するようになった。


「ああん! とぉ~っても嬉しいけど、手が足りないわぁっ!」


 当然ながらゴリちゃん一人ではとても対応し切れない。

 予約は何か月も先まで埋まってしまった。


 そこでゴリちゃんが取った対策は、弟子を取る、もとい従業員を雇うということだった。

 ……まぁそれしかないよね。


 といっても、美容なんてこの世界では新し過ぎる概念だ。

 簡単に弟子を取れるとは思えないし、弟子が入ったとしても、モノになるまでにはかなり時間がかかるだろう。


 ……そう思っていたのだけれど。



「「「「「いらっしぁぁぁぁぁぁぁぁい♡」」」」」



 久しぶりにその美容院に行ってみると、大勢のマッチョたちが出迎えてくれた。

 しかも全員が濃い化粧をし、フリフリのピンク色衣装に身を包んでいる。


「何でゴリちゃんみたいな人が増えてるの!?」

「みんなアタシの弟子よぉん」


 どうやら彼ら(?)はゴリちゃんが雇った従業員たちらしい。


「うふん、アタシたち、ゴリちゃん店長のお陰で美の世界に目覚めたの!」

「一生この道を追求していくわぁん!」

「言葉遣いまでゴリちゃん化してる!?」


 よく見ると、その従業員たちが物凄い手捌きで女性客の髪をカットしていた。

 この短期間で美容の技術も身に付けてしまったらしい。


「はぁい、とぉっても綺麗になったわよぉん♡」

「え、ほんとにこれが私っ!?」

「うふふ、見違えたでしょ?」

「ええ! きっと旦那も喜ぶと思うわ! ありがとう!」


 彼ら(?)の施術を受けた女性たちは例外なく綺麗になって、嬉しそうにお店を出ていく。


 こうして村の女性たちは、この美容院ができる前と後とですっかり様変わりしてしまった。


 難民や貧しい村の出身者が多いこの村は、あまり大きな声では言えないけれど、いかにも野暮ったい感じの女性が多かった。

 それが気づけば、右を見ても左を見ても美人ばかり。


 王都にだって、こんな華やかな女性たちは多くないと思う。


 まぁ、元々、村の服飾工房で作られた服はお洒落なものが多かったんだけどね。

 けれどそれを上手く着こなせている女性は少なかった。

 それが今やゴリちゃんの力によって、ファッションというものが普通の人にまで浸透し始めてきている。


 その後、この美容院の噂は村の外にも広がり、やがて各地から女性たちがこれだけを目当てにやってくるようになるのだった。

 ……あと、弟子入り希望のマッチョも増えた。



   ◇ ◇ ◇



「それにしても相変わらず繁盛しているな……」


 村に新しくできた美容院とやらを遠巻きに見ながら、セリウスは呟いた。

 今日も大勢の女性たちで行列ができている。


「姉上もすっかり虜になってしまっているし、途轍もない影響力だ」


 お洒落や美容などとは無縁だったはずの彼の姉も、一度あそこで綺麗にされて以来、自身の見た目にかなり気を遣うようになっていた。

 弟の彼から見てもハッとさせられるほどの美少女になってしまい、正直、訓練などがやり辛くなってしまった。


「ん? 何だ、あの店は? メンズ美容院……?」


 どうやら男性用の美容院ができたらしい。

 いやいや、さすがに男性に女性のようなお洒落なんて必要ないだろう、と首を振りつつも、セリウスはふと思う。


「もしそこでぼくもカッコよくなれたとしたら……フィリアさんに……って、そもそも彼女はああいうところはあまり好まないか。そのままで十分過ぎるくらい綺麗だし……」

「む? セリウス殿ではないか」

「っっっ!?」


 脳裏に思い浮かべていた人物の声がいきなり背後から聞こえてきて、セリウスは思わず飛び上がってしまった。


 今の、聞こえてなかったよな!?

 と恐る恐る振り返ったセリウスは、そんなことなど忘れてしまうほどの衝撃を受けることとなった。


「どうだろうか? 私も流行りの美容とやらを受けてみたのだが」


 そこにいたのは、さらに美しくなったフィリアで。


 ブシュウウウウウウウウウウウウウウウッ!!


「セリウス殿っ!?」


 セリウスは鼻血を噴き出しながら卒倒した。

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