第197話 もっと美しくなれるということだね
僕の名はシュバール。
王都で経営者をしている。
自分で言うのもなんだが、才能のあった僕は、若くしてすでに十分過ぎるほどの成功を収めてきた。
お陰で誰もが羨む美人の妻を娶り、王都の高級住宅街に建てた大豪邸で優雅に暮らしている。
「ねぇ、ダーリン。今年のバカンスはどこに行くの?」
「そうだね……噂の荒野の街にでも行ってみようか」
「荒野の街?」
「知らないのかい? 旧アルベイル領の最北。今まで誰も開拓できなかった荒野に作られたまだ新しい街だというのに、何でも移住者が急増しているらしい。一度住めば二度と他の場所に住みたくなくなるくらい、快適な暮らしができるそうだよ」
「まぁ、素敵。でも、さすがに遠すぎないかしら?」
「それがね、鉄道っていう、馬車なんかより遥かに早い移動手段があるんだ」
「鉄道! つい最近、パーティで他の奥様が言っていたわ! あまりに荒唐無稽で、てっきり冗談かと思っていたのに!」
妻は目を輝かせる。
「一体どんな街なのかしら? 楽しみね!」
「ふふふ、僕も楽しみだよ。幾ら急発展していると言っても、所詮は辺境の小さな都市。きっと君のような美女なんて見たら、腰を抜かすほど驚くだろうからね」
「まぁ、ダーリンったら……」
そんなわけで、僕は妻とともにその鉄道なるものを使い、荒野の街へ行くことにしたのだった。
その鉄道の「駅」は、王都の地下にあった。
「凄いわ、こんなに広い空間が地下に作られたなんて!」
「見てよ、ハニー。あれがきっとデンシャだよ」
「まぁ、大きい! あれに乗っていくのね!」
それは巨大な鉄の塊だった。
本当にこんなものが動くのだろうかと訝しみながらも、指定された座席に腰を下ろす。
このデンシャに乗るには、あらかじめキップを購入しておく必要があるのだ。
購入希望者が殺到していることもあって、かなり高価だったけれど、僕の財力なら安いものだった。
「っ! ダーリン! 動き出したわ!」
「本当だ! 動いている!」
とはいえ、すぐに動いているのかどうか分からない状態になってしまった。
窓の外は地下の暗闇だし、ずっと静止しているような錯覚に陥ってしまう。
「……これで本当に荒野の街に向かっているのかしら?」
「そのはずだけれど……」
最初こそ興奮していた妻も退屈のせいか、居眠りを始めてしまった。
僕はその隣で読書することにした。
途中、幾つかの「駅」で停車しつつ、やがてデンシャは荒野の街へと辿り着いた。
……らしい。
「本当に着いたのかしら?」
「そ、そのはずだよ、ハニー」
半信半疑の僕たちはデンシャを降りる。
乗ったところとは少し雰囲気が違うものの、それほど大きな差はない。
だけど地上への階段を上り切った僕たちは、信じられない光景を目の当たりにするのだった。
「な、何だ、この都市は!?」
「高い建物がいっぱいあるわ! しかもすごく綺麗……っ!」
そこは王都とは明らかに違う大都市だった。
……下手すれば王都よりも栄えているほどだ。
「本当に、ここが荒野だったのか……?」
王都で生まれ育ったこともあって、僕は少しだけ対抗心を抱く。
確かに建物は立派で真新しい。
だけど、人はどうだろうか。
難民や貧しい村からの移住者ばかりだと聞いているし、きっと妻のように洗練された美女なんていないはず――
「「っ!?」」
僕たちはそろって息を呑んだ。
というのも、すぐ目の前を通っていった女性が、信じられないくらいの美女だったからだ。
彼女だけじゃない。
行き交う女性が美女ばかりなのだ。
いや、顔立ちだけを見れば、僕の妻より劣っているかもしれない。
だけど健康的な肌とメイク、それに髪型や服装によって、輝くような美へと昇華されているのである。
田舎の街で妻の美しさを自慢しようとしていた僕は、特大のカウンターパンチを喰らってしまったようによろめいてしまう。
そんな僕とは対照的に、妻は無邪気に目を輝かせた。
「すごいわ! 一体どうやってあんなに美しくなったのかしら!」
気づけば近くにいた女性に訊ねている。行動力すごい。
「分かったわ! ビヨウインというところに行けば、綺麗になれるそうよ!」
「ビヨウイン?」
それを聞いて、僕はどうにか気を取り直す。
「な、なるほど、じゃあ元が美しいハニーがそこにいけば、もっと美しくなれるということだね!」
「そうなるわ! 素敵っ!」
というわけで、僕たちは早速そのビヨウインへやらに向かうのだった。
「あら、いらっしゃ~~~い♡」
「「~~っ!?」」
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