第207話 という設定でどうだ
「せっかく気持ちよく眠っていたのに、オレを起こしたテメェが悪い。あの封印は面倒な準備がめちゃくちゃ必要で、もう二度とやりたくねぇ。だからテメェには、オレを死ぬまで養い続ける責任がある」
というのが、彼女の言い分だった。
そんなわけで僕の家に住みついて、彼女は毎日毎日何をすることもなく、ただただ酒を飲んで寝て酒を飲んで寝てを繰り返しているのである。
「にしても、酒はうめぇ、メシはうめぇ、おまけに快適なベッドまであるなんて、マジで最高だな。どうやら素敵な飼い主に拾ってもらえたみてぇだ」
酒のツマミを食べながら、ミランダさんが犬の真似をしてバウバウと鳴いた。
飼い主って……多分、酔ってるんだろう。……酔っててほしい。
「ええと、ミランダさんはいつの時代の人なんですか?」
「さぁな。今がいつの時代か知らねぇから訊かれたところで分かんねぇよ」
「そうなんだ……」
「ちなみにオレは当時、この髪の色から、黄昏の賢者と呼ばれて崇められてたんだぜ」
「へぇ」
全然そんな風には見えない。
とはいえ、あの遺跡で封印が解けた直後に見せた魔力。
あの凄まじさは、確かにそれに相応しいものがあったかもしれない。
「……だがな、オレはあまりにも有能過ぎた」
何だろう、急に自慢話かな?
と思っていると、
「お陰で誰もがオレに頼り切るようになった。当時のオレは優し過ぎたんだ。みんなの役に立てるならって、惜しみなく力を貸した。だが、それが間違いだったんだ。気づけば何から何までやる羽目になり……オレは毎日、死ぬほど働いた。なのに、いつの間にかみんなそれが当たり前のように思っちまったんだ」
遠くを見るような目をして、とつとつと過去を語り出す。
「あるとき、ついにオレにも限界がきた。何もかも投げ出した。やってられるかってな。そしたら、今までオレに頼ってた連中が激怒しやがったんだ。早くやれ。逃げるんじゃねぇ、ってな。ふざけんじゃねぇよ。……賢者なんて言われながら、オレは愚かだったよ……無償の奉仕も、過ぎれば人をダメにしちまう……そんなことにもっと早く気づけなかったなんてな……」
村長として、なんだか他人ごととは思えない話だった。
「それでオレは働くのをやめたんだ。だが、それでもオレを捜し出しては、あれこれ頼みごとをしようというやつが後を絶たない。面倒になって、自分を昔の遺跡に封印しちまうことにしたんだ。二度と目を覚まさねぇよう、地下深くのあの部屋にな」
「そうだったんですか……」
どうやらミランダさんはあの遺跡が作られたよりも、後世の時代の人ではあるらしい。
「……という設定でどうだ?」
「設定なんか~~~~いっ!?」
思わずズッコケながら大声で叫んでしまう。
それを見て、ミランダさんがケタケタと大笑いする。
「ぎゃははははっ! 信じた!? もしかして信じた!? ぎゃはははははっ!」
この酔っ払い……。
「残念ですけど、うちの村では必ずみんなに何かしらの仕事をしてもらってるんです。住む場所なんかは無償で提供するけれど、村で暮らすというなら例外はありません。だからミランダさんにも働いてもら――」
「ぐがー」
「って、寝てる!?」
僕は近くにあった水差しを使い、強引に水を流し込んでやった。
「ぼごごごごごごっ!?」
慌てて目を覚ます自称賢者。
「げほげほげほっ! テメェ、可愛い顔して意外とめちゃくちゃすんな!?」
「それより話を聞いてくださいね? 別に何でも構わないし、簡単な仕事でいいので、何か村に貢献するようなことしてください」
「ククク、だが断る! オレは他人の家に居候してタダ酒を飲んでタダ飯を食って、毎日ぐうたら何もせずに暮らすのが好きなんだよ!」
「そうですか……じゃあ、仕方ないですね」
僕は彼女の腕を掴んで、そのまま瞬間移動を使った。
飛んだ先は何もない草原だ。
「ここに置いていきますねー」
「ちょっ、待て――」
呼び止める声を無視して、僕は村へと戻るのだった。
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