第336話 ちゃんと鏡で見た方がいいよ
「な、なぜでござるっ? 手がまったく懐に入らぬっ!?」
切腹しようとしたけれど、懐の短刀を取り出せないアカネさん。
「いや、めちゃくちゃ太ったからでしょ」
「太った……?」
「え? 気づいてないの?」
どうやら本人には自覚がなかったらしい。
「ちゃんと鏡で見た方がいいよ。ええと、全身を見れるような鏡は……あそこがいいかな」
アカネさんを連れて再び瞬間移動。
移動した先は、宮殿の一階にあるエントランスロビーだ。
そこの壁の一部が全面、鏡張りになっているのである。
自分の全身を確認したアカネさんが絶句する。
「な……これが、拙者でござるか……?」
「そうだよ。絶望的なくらい太ってるでしょ」
「こんなだらしのない姿に……せ、切腹っ! 切腹し悔い改めるでござる!」
「短刀、取り出せないでしょ」
「はっ!? 拙者は、腹を切ることも許されぬというのか……」
愕然としてその場に膝を折るアカネさん。
どん、と大きな音が鳴った。
「それよりちゃんと修行しよう。痩せられて、また山脈の単身踏破も目指せる。一石二鳥だよ」
「……そうするでござる」
アカネさんはしょんぼりしながらも頷く。
「でも、その腰の刀、抜ける?」
「そ、それは当然でござるよ。自力で刀を抜けぬなど、もはやサムライに非ず……」
「どうしたの?」
「腹に腕がつっかえて、ぜんぜん抜けぬでござるうううううううううううっ! 刀も抜けぬサムライに生きる価値などない! 切腹……って、それができぬのでござった!?」
「うん、とにかくまずは痩せよう……」
「それにしても、やっぱり工場の生産力はすごいね。お陰でキュアポーションを短期間で大量に作ることができちゃった」
〈工場:様々な製品を大量に生産・製造するための施設。安全第一〉
実はキュアポーションを用意するため、ギフトによって工場を作ったのだ。
これまでのポーション製造はすべてエルフたちによる手作業だったのを、できる範囲で機械化させることにより、生産力が大きく向上した。
メイセイ神皇には、簡単じゃなかったとか言っちゃったけど、この工場のお陰でそんなに大変ではなかったりする。
工場でのポーション生産は、今後も続けていくつもりだ。
「各地と行き来が簡単にできるようになって、需要がどんどん増えてきてるしね」
もちろん素材となる薬草類もたくさん必要なので、畑の栽培面積をかなり増やしてある。
工場で生産しているのはポーションだけじゃない。
輸出用の食品加工に、衣類の裁縫、それから日用品や雑貨の生産なども、最近は工場で行うようになった。
他に農業用の機械なんかも工場で作っている。
僕が前世の記憶を頼りに提案し、ドワーフたちが形にしてくれたのだけれど、これにより農作業が大いに捗るようになった。
「そういえば、ミリアに頼まれて印刷専用の工場も作ったっけ」
その割には、本が出版されたりしてるのを見ないけど……新聞とかチラシを作ってるわけでもなさそうだし……。
一体何を刷っているんだろう?
◇ ◇ ◇
「やはり素晴らしいですね、この工場と呼ばれる施設は。さすがルーク様のお力」
「はい、ミリア様。お陰で聖典を大量生産することが可能になりました」
ルークのギフトによって設置された工場。
そのうちの一つが、印刷工場であり、そこでは布教のためにも利用されている聖典『ルーク様伝説』が次々と作られていた。
……もちろんルーク本人はそれを知らない。
「どんどん印刷してください。これからもっともっと必要になるはずですから」
現在すでにキョウ国から大量の注文が入っている状況だが、エドウやオオサクへの布教も少しずつ進んでいる。
もちろんアレイスラ大教会を取り込んで以降、国内の信者も爆発的に増加していた。
「ふふふ、きっと世界中にルーク様のことが知れ渡る日も近いでしょう」
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