第192話 乙女になんてことを言うのかしら

 わざわざ王様に直接プレゼンしたかいもあって、丸投げ作戦は上手くいった。

 鉄道事業は国が行ってくれることになったのだ。


 各領主との交渉や、鉄道ルートの構築など、すべて責任をもって進めてくれるはずだ。

 もちろん実際に駅や鉄道を作るのは僕、もとい、僕の影武者たちだけれど。


 ちなみに色々と検討した結果、鉄道は地上ではなく、地下を通るようにする予定だった。


 なにせ、まだ鉄道や電車なんて誰も知らない世界だ。

 そのまま地上に作っちゃうと、何だこれはと線路の中に立ち入って、走ってきた列車に轢かれてしまう人も少なくないだろう。


 なので、まずは地下道で都市と都市を結んでから、その地下道に線路を通すつもりだ。

 これなら障害物も問題にならないし、何より駅も地下に作ってしまえば、街並みを変える必要だってなくなるはず。


 なお、王都から旧アルベイル領都、そしてリーゼンを通ってこの荒野の村を終点とする路線は、すでに開業が確定している。王家の直轄領だしね。

 もう影武者が作り始めているので、近いうちに試運転が開始されるだろう。


「またルークと一緒にデンシャに乗りたいわ!」

「ルーク様、なぜわたくしは乗せてくださらなかったのです?」


 電車が気に入ったのか、セレンが目を輝かせて主張する。

 一方、ミリアからは責められてしまった。


「ふふふ、私の勝ちね!」


 ……なぜか勝ち誇ってるけど、たまたま勝手に乗ってきただけでしょ。


『る、ルーク村長! 大変です!』


 そのときサテンから念話が飛んできた。

 随分と慌てた様子に、何事かと僕は身構える。


『村にっ、とんでもないやつがやってきました……っ!』

『とんでもないやつ?』

『現在、城門の衛兵がどうにか対応していますが、突破されてしまうのも時間の問題かと!』


 僕はマップを確認してみた。


「あれ? おかしいな……」


 危険な人間が無理やり村に入ろうとしているなら、それが赤い点で示されているはずだ。

 なのにそれがまったく見当たらなかったのである。


 とりあえず自分の目で見た方が早いだろう。

 僕は瞬間移動で城門に飛ぼうとする。


「ちょっと、何があったか分からないけど、私も連れていきなさいよ!」


 何となく緊迫した臭いを察したのか、セレンが訴えてくる。

 確かに万一を考えると、戦える彼女を連れていった方がいいかもしれない。


 そうして一緒に城門へと飛んだ。

 するとそこにいたのは、



「だ~か~ら~、アタシは危険な存在なんかじゃないわよぉっ! ここにやってきた理由はただ一つ! 〝美〟をみんなに伝えるためよ!」



 などと、自身を取り囲む衛兵たちに向かって力説する謎の人物。


 その特徴を一言で言うと、めちゃくちゃ大きい。


 たぶん身長は二メートルを超えていると思う。

 盗賊団の元親分、ドリアルに勝るとも劣らない体格だ。


 しかもはち切れそうなほどに膨れ上がった筋肉は、ドリアルのそれを凌駕している。

 まさしく巨漢という言葉が相応しい。


 見た目通り声も野太い。

 なのにその言葉遣いは真逆で、まるで女の子だった。


 加えて、その格好だ。

 全身ピンク色で、あちこちにフリフリが付いた、いかにもお姫様といった服装。

 頭にはティアラが輝き、長い金髪は可愛らしいリボンでツインテールに結ばれている。


 顔にはバッチリ化粧。

 だけど素材の男らしさはまるで隠し切れていない。ケツ顎だし。


「え……何、あの生き物……?」


 セレンが引いている。

 それは衛兵たちも同様で、


「嘘を吐け! 貴様からは美しさの欠片も感じられん!」

「それどころか、この村に災いを呼び込むようにしか見えねぇぞ!」


 武器を手に威嚇している。


「んまぁ! 乙女になんてことを言うのかしら! さすがのアタシも怒っちゃうわ! ぷんぷん!」


 可愛らしく(?)頬を膨らませて憤慨する謎の巨漢。


 見た目はなかなかインパクトがあるけれど……マップを見ても、とりあえず危険な人物というわけではなさそうだ。

 僕は恐る恐る声をかけてみる。


「ええと、詳しく聞かせてもらっていいかな?」

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