第191話 座ってないと危ないですよ

 プア~~~~ンッ!!


「な、何の音だ!?」

「敵襲か!?」


 僕が鳴らした警笛に王様一行が驚く中、僕は電車を出発させた。


「「うわっ!?」」

「座ってないと危ないですよー。もしくはその吊革に掴まっててくださいね」

「ほ、本当に動き出したぞ!?」

「こんな巨大な鉄塊が……」


 電車がどんどん速度を増していく。

 王様一行はまるで子供のように座席に膝を突いて上がると、窓に顔を寄せて外の光景を眺めている。


「すごい、もう王都があんな遠くに……」

「馬車などとは比べ物にならない速さですわ……っ!」


 線路を延伸させながら、僕は言う。


「せっかくなので、このまま旧アルベイルの領都まで繋いじゃいますね。全速力で行けば、一時間もかからないと思います」

「い、一時間!? 普通なら何日もかかる距離だぞ!?」


 この電車の最高速度は時速150キロくらい。

 途中の停車駅なんてないので、一時間で150キロ進める計算だ。


「風がとても気持ちいいですの!」

「それにしても、この速度なのにほとんど揺れを感じないとは……。ぐっすり眠れてしまいそうなほどだ」


 電車の走行にも慣れてきたようで、段々とくつろぎ始める王様一行。


「しかし、もしこんなものを国中に展開することができたとしたら……。もはや国の在り方が一変してしまうだろう」

「ああ。今までは地理的な問題もあって、どうしても各地の統治を諸侯に任せざるを得なかった。だがこれがあれば、各地の状況を把握するのも容易くなる。王家の力が国中に及ぶように――」


 そんな政治談議を始める文官もいる中、やがて旧アルベイル領都が見えてきた。



    ◇ ◇ ◇



「えっ? 国王陛下がいらっしゃる?」


 影武者から突然の報告を受けたのは、ハング=アルベイル。

 ルークの叔父で、王家直轄領となった旧アルベイル領の代官を務めている男だ。


「しかももう間もなく到着されるだって? そんな話、聞いてないぞ!?」


 だって今言ったから、という顔をしている甥っ子の影武者に嘆息しながら、ハングは慌てて国王を迎える準備をしようと立ち上がる。


「だが一体どうやっていらっしゃるんだ? え? とりあえず街の外に行こうだって?」


 次の瞬間、影武者が使った瞬間移動により、ハングは城壁の外に飛んでいた。

 影武者は本体と同様、すべてのスキルを使用することが可能なのだ。


「ん? 何だ、あれは? こっちに近づいてくるが……」


 そこでハングが目にしたのは、遠くからこちらに迫ってくる四角い物体だった。


 馬車ではない。

 それを曳いている馬の姿がないからだ。


「ちょっと待て。あれ、荷車だけで動いてないか……? いやいや、そんなはずは……」


 思わずそんなことあり得ないと一蹴したハングだったが、段々とそれが大きくなってくるにつれ、間違いではなかったことを悟る。


「な、なんじゃこりゃあああああっ!?」


 キイイイイイ、という音を奏でながら、影武者が作り出した「駅」で、その巨大な箱が停止した。

 あまりの迫力に悲鳴を上げながら尻餅をつくハング。


 ブシュー、と音が響いて、箱のドアが開いた。

 中から出てきたのは国王陛下一行である。


「いやはや、本当に小一時間で着いてしまうとはのう……」

「さすがルーク様ですわ!」


 ハングは慌ててその場に跪いた。


「へ、陛下、ようこそお越しくださいました」

「む? わざわざ出迎えてくれたのか」


 ハングに気づいて国王は驚く。


「いや、急なことで済まなかったな。余もまさか、ここに来ることになるとは思ってもいなかった」

「し、しかし陛下、これは一体何なのです?」

「余も詳しくは知らぬが、デンシャというものらしい」

「デンシャ……?」

「うむ。これに乗れば、この街まで王都から一時間もかからんかったわい」

「い、一時間!?」


 困惑するハングを余所に、甥っ子の本体(?)が言う。


「それじゃあ、王都に戻りますね」

「……できればまたこのデンシャで帰りたいのだが?」


 どうやら国王はデンシャを気に入ったらしかった。

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