第301話 向かうは王宮の中枢だ
「ま、間違いない、ここは王宮の中庭だっ!」
「本当に王宮内に入れてしまった……」
地下道から階段で地上に出ると、そこは庭園らしき場所だった。
元は綺麗に整えられていたのだろうけれど、砂賊との戦闘で荒らされたのか、草花の多くが無残に踏み潰されている。
「各部隊、作戦通りに展開っ! まずは王宮を完全に制圧するっ!」
「「「おおおおおっ!!」」」
マリベル女王の合図を受けて、地下道で打ち合わせていた通りに、それぞれの部隊が散開していく。
当然ながら王宮内の構造は熟知しているため、淀みない動きだ。
勝敗の行方は、いかに早く王宮を制圧できるかにかかっていると言っても過言じゃない。
今頃、手駒にした砂賊たちが街中で暴れてくれているだろうけど、長引くほど王宮に援軍が集まってきて、こちらが不利になっていくからね。
一応、各部隊に狩猟隊の面々を振り分け、作戦をサポートしてもらう。
「我らも行くぞ! 向かうは王宮の中枢だ!」
そうして王宮各所へと散らばった部隊に対して、マリベル女王が率いる総勢三十人からなる本隊は、王宮の中心へと突撃していく。
お供は僕(影武者)とセレン、それからノエルくんだ。
「何だ、てめぇら!? どっから入ってきやがった!?」
「まさか、エンバラ兵!?」
「なぜここに……っ?」
すぐに王宮内を占拠していた砂賊たちがこちらに気づくが、突然過ぎて狼狽えている。
「はああああああっ!!」
勇ましい声と共に、砂賊の集団へと先陣を切って突っ込んでいったのはマリベル女王だった。
「「「がぁっ!?」」」
鞘から剣を抜き放ち、一閃。
それだけで三人の砂賊が切り捨てられ、その場に倒れ伏す。
さらにそれでは飽き足らず、すぐさまマリベル女王は別の砂賊へと躍りかかった。
「その調子よ! さすが私が付きっきりで鍛え上げただけのことあるわね!」
弟子の活躍に、自慢げに胸を張るのはセレンだ。
「こいつ……まさか、女王かっ!?」
「自ら乗り込んできやがるなんて……っ!」
「はっ、むしろ好都合じゃねぇか! ここであいつを仕留めりゃ奴らはお終いだっ!」
そのときマリベル女王目がけて、ナイフが投擲された。
女王は他の砂賊に飛びかかろうとしているところで、それに気づいていない。
「させるかあああっ! ふん……っ!」
身を挺し、ナイフから女王を護ったのはガンザスさんだった。
その腕にナイフが直撃する。
ガンッ!!
ナイフが弾かれ、地面に落ちた。
ガンザスさんの腕には傷一つ付いていない。
「ば、馬鹿な……今、確実に当たったよな……? 俺の投擲は、薄い鉄の鎧くらい貫く威力があるんだぞ……?」
ナイフを投げた砂賊が唖然としている。
「はっはっはっはっ! 今の儂の筋肉は、鋼鉄よりも硬いのであるっ!」
さらに、ギフトを持たないエンバラ兵たちも、村での訓練の成果か、立ちはだかる砂賊を圧倒していた。
「こ、こいつら、異常に強いぞ!?」
「クソッ、このままじゃ突破されちまうっ! 他の奴らは何してやがる……っ!?」
「それがっ、各所に侵入されているみたいっす!」
ついには敵陣を蹴散らし、やがて王宮の中枢と思わしき場所へと辿り着く。
広々とした豪奢な空間だ。
奥には玉座と思われる椅子が設置されていて、こんな状況にもかかわらず、一人の男が泰然と腰かけていた。
ピアスと刺青だらけの若い男だ。
恐らく彼がこの砂賊の一団を率いるカシムという男だろう。
カシムは蛇のような鋭い目で、敵陣を突破して現れた女王一行を睨みつけると、腹立たしげに口を開いた。
「……一体どういうことだ? てめぇは隠れオアシスに潜んでいるんじゃなかったのか? それにどうやってここまで入ってきた?」
「貴様に説明する義理などない。今すぐその玉座を明け渡せ。そうすれば少しはマシな処刑方法で済ませてやってもいいぞ」
「はっ、随分と舐めた口を利いてくれるじゃねぇか? まさかとは思うが、このオレ様を倒せるとでも思ってんじゃねぇだろうな?」
玉座からゆらりと立ち上がるカシム。
いつの間にか手にしていたサーベルに近い形状の剣の腹を、楽しげに舌で舐め回している。
「もちろんそのつもりだ」
「ククク、そいつァ……なかなか面白い冗談じゃねぇかァッ!!」
断言するマリシア女王に、カシムが躍りかかった。
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