第300話 完全に別人になっている
僅か二週間の訓練だったが、女王一行は大いに強くなった。
「この調子なら、そう遠くないうちに国を取り戻すことができるかもしれない!」
「あ、もうそろそろ作戦に移るよ」
「もう!?」
「あれ? すぐに国を取り戻しに行くって言ったよね?」
「せ、せめて半年や一年後のことかと思っていたのだが……」
驚く彼女たちだけれど、実はすでに色々と準備は整っている。
「確かに、あまり悠長にはしていられまい。奴らに支配されている国民のことも心配だ」
神妙に頷くマリベル女王。
やはり『戦乙女』は強力なギフトだったようで、この短期間でセレンが太鼓判を押すほどにまで成長していた。
一方、『鉄人』のギフトを持つガンザスさんも、ゴリちゃんのスパルタ訓練を耐え抜いたみたいで、元から身に着けていた鎧が入らなくなるほど筋肉が付いている。
「そうですな。しかし短い期間でしたが、我々は以前とは比べ物にならないくらい強くなっておりますぞ! 今なら必ず勝利できるはずよぉん! ……できるはずですぞ!」
……少しゴリちゃんの口調までうつってしまったみたいだ。
ちなみに最初は五十人ほどだった一行は、現在、八十人くらいにまで増えている。
あの後、遅れてオアシスに辿り着いた兵たちや、砂漠を彷徨っていた兵たちを回収して連れてきたためだ。
「強くなったとはいえ、敵は我らの何倍もの戦力だ! しかも今度は忌まわしいことに、向こうは我らの都市を利用して防衛戦を展開してくるはず! 間違いなく厳しい戦いになるだろう! だが、失敗は許されない! これが祖国を取り戻す最後のチャンスだ! 命に代えてでも逆賊どもを撃破し、必ずや祖国を奪い返すぞっ!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」
悲壮な覚悟で演説するマリベル女王に、拳を突き上げて応じるエンバラ兵たち。
「うんうん。そんな決意に応えて、素敵な戦力を用意しておいたんだ」
「戦力?」
「うん、彼らだよ」
「なっ!?」
ぞろぞろと現れたその集団に、女王一行が息を呑みながら身構える。
「警戒しなくても大丈夫だよ。みんな、しっかり更生されたみたいだね」
「「「はい!! 心を入れ替えましたっ!!」」」
大きな声の返事と共にビシッと敬礼したその集団は、更生施設送りにしていた砂賊の連中だった。
「か、完全に別人になっている!? 一体何をしたんだ!?」
目を剥くマリベル女王に、ネマおばあちゃんがニヤリと笑って訊く。
「いっひっひっひ、知りたいかねぇ?」
「い、いや……遠慮しておこう……」
こちらの手駒になった砂賊たちの最初の役目は、敵の戦力をできるだけ減らすことだ。
女王とその残党を発見したとかなんとか伝えて、大規模な討伐隊を出させる形がいいかな。
その後は砂賊の中に紛れさせ、街の各所で同士討ちなどを起こして混乱させてしまおう。
「なるほど……それなら王宮まで、かなり戦いを避けながら進めるかもしれないな」
「あ、王宮には直で乗り込むよ」
「? どういうことだ……?」
すでにエンバラ王国の王宮まで地下道を繋げてあるので、そのまま突入することが可能なのである。
「……って、あれ? もうすぐ戦いなのに、あんまりモチベーション高くない?」
「「「だって思ってたのとなんか違う!」」」
……そんなこんなで今に至るというわけだ。
「なんというか、もっとこう、祖国を賭けた命懸けの作戦をイメージしていたのだが」
「ここまでお膳立てされるとは思ってなかったわぁ。……思ってなかったですぞ」
「あ、そうそう。ポーションもたくさん用意しておいたから、一人二本くらい持っといてもらっていいよ」
「「「ポーションまで!?」」」
ちなみに女王一行に加勢するため、セレン率いる狩猟隊から十名ほどに加え、ゴリちゃんも参戦している。
また万一に備えて、地下道には『癒し手』のギフトを持つエルフのクリネさんなど、回復魔法が使える村人も待機させていた。
「じゃあ行こっか。王宮には百人くらいしか残ってないみたいだから、人数的にほぼ互角だね」
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